CSOネットワークシンポジウム「民間による開発支援を考える~その資金規模把握への挑戦~」(2/15)ご報告

06.11


ユリヤ・スパンタック氏当日資料 [PDF 1.40MB]
山内直人氏当日資料 [PDF 482KB]
中原直人氏当日資料 [PDF 657KB]

【開会挨拶】

野村彰男氏
国際交流基金 日米センター所長

米国におけるNPO法人は150万団体を超え、民間の活力はますます増大し、アクターも多様化している。東日本大震災の復興支援をみてもわかるように、民間の支援なくして復興は進まず、民間支援の強化の必要を感じている。このような背景のもと、当日米センターでは、今年度、CSOネットワークによる「民間開発」の事業を助成しており、本日のこのシンポジウムもその一環として開催されている。このシンポジウムを官民共同の課題解決の議論の場としていただき、何らかのヒントを得ていただければ大変嬉しく思う。

「グローバル・ギヴィングを測る-その挑戦と恩恵」

ユリヤ・スパンタック氏
ハドソン・インスティテュート グローバル・プロスパリティ・センター リサーチ・フェロー

このような素晴らしいイベントにお招きいただきありがとうございます。本日は、国際開発分野における民間セクターの役割について、私たちハドソン・インスティテュート、グローバル・プロスパリティ・センターがおこなっている調査についてお話します。この調査は、開発支援の新しい展望を正確に理解するために非常に重要であり、日本においても今年度より着手されているものです。話の構成としては、まず開発支援における変化の背景について紹介し、その後その変化の計測調査とそこから導き出される政策的インプリケーションについてお話しします。

1990年代以前は、途上国に流れる資金は、公的資金が民間資金を上回っていたが、1990年代以降その関係は逆転し、その間、途上国にも様々な変化が生じた。具体的には、技術革新とともに知識や要求が多くの国で共有され、また経済のグローバル化によって自由市場や自由社会が拡大された。ブラジルや南アフリカ、中国、インドといった新興国が台頭し、海外送金が増大するとともに、官民連携に見られるようなセクターを超えた連携が拡大した。民間資本の影響もあってか、開発にも成果が求められるようになり、説明責任に対する要求も高くなっている。

民間による開発資金の計測をおこなっているのは、世界でもハドソン・インスティテュートのみ。取り組みのきっかけは、米国は日本同様、ODAの対GNI比が低く0.7%目標達成には程遠いことから、長年国際的な批判を浴びてきた。しかし規模の大きい民間援助資金は考慮されておらず、ODA以外の資金も含めた開発への貢献が正当に評価されるべきとの認識によるもの。

2009年の推計では、OECD諸国から途上国への民間資金フロー(①民間投資、②海外送金、③フィランソロピー)は4550億ドルにのぼり、ODA総額(約1200億ドル)の約4倍の規模(OECD諸国の経済的関与の80%は民間資金フローを通じたもの)。

民間資金フローのうち、民間投資は景気の影響を受けやすくボラティリティが高い。海外送金は景気の影響を受けず90年代より上昇傾向が続き、貧困層にとって経済ショックの緩衝材となっている。フィランソロピーはOECD合計530億ドルと推計されているが、これでもまだ実態を過小評価した数字。当センターでは、DAC23カ国のうち、米国をはじめ13カ国の民間援助資金を調査し、OECDに過小報告された数字の改善を図っている。しかし日本も含め、まだ10カ国ほどは不完全なデータである。

米国の場合、ODAの対GNI比はDAC19 位だが、フィランソロピーと海外送金を加えると8位に上昇する。日本の場合はCSOネットワークで推計作業中なので反映していないが、次回報告でデータを反映すれば順位が上がるかもしれない。

米国の民間援助(フィランソロピー)額について、2009年の米国ODAは288億ドルであったが、民間援助総額は375億ドル規模となり、米国全体の途上国への経済的関与の17%を占め、ODAを上回っている。民間援助額の内訳は、財団 が46億ドル(うち半分がゲイツ財団)、企業が89億ドル(大部分が製薬会社)、PVO(民間ボランティア団体、NGO等) が120億ドル、ボランティア(時間を金額に換算)が30億ドル、大学(米国への留学生支援)が18億ドル、宗教団体 が72億ドルとなっている。総額375億ドルという数字は想像よりも規模が大きく、国内関係者に驚きを持って受け止められた。米国がDACに報告している数字は、この総額より210億ドルほど過小報告されている。

ODAとの違いを分析する上でも、米国の民間援助を地域別、セクター別にみることは重要。地域別では、サブサハラ・アフリカ(37%)、中南米(30%)、アジア・太平洋(22%)、東欧・中央アジア(7%)、北アフリカ・中東(4%)。米国のODAでは北アフリカ・中東が多いのと対照的。セクター別では、保健(32%)、災害時の人道支援(28%)、教育(14%)、経済開発(11%)、その他(10%)で、民主主義・ガバナンスは3%と低いが、民間が入りにくいセクターであるためといえる。

日本は民間援助額が低く、DACへの報告額は約6億ドルで、米国と異なり民間援助額をODAと合計してもGNI比が大きく上昇することはないだろう。日本企業のフィランソロピーも活発だが測定が難しく、DACの統計にも含まれていない。他方、途上国への民間投資では米国に次ぎ世界2位。海外送金については72億ドル。

民間援助資金の国際開発へのインパクトについて。政府間援助モデルが主流という時代は終わった。民間援助は途上国の現場の組織や人々に直接入り込み、ニーズに応え、参加を促進する。汚職とレントシーキングの減少にも役立っている。官民連携はMDGs達成にとって重要で、日本では大塚製薬が結核治療に貢献している事例もある。海外送金についても、昨今では途上国の経済開発を目的としたディアスポラ・ボンドも登場し、インパクトを与え始めている。民間援助資金は援助の下請け企業をバイパスできるため効率的で、経済開発は政府よりもむしろ民間が得意とする分野。透明性も高い。課題としてはフラグメンテーション(分散化)。

新しい動きとしては、一方通行の援助ではなく、援助の双方向化。民間フィランソロピーに投資が加わる社会関連プログラムもある。インパクト投資というものも登場し、一般の投資ファンドが運営するが、通常の投資リターンのみならず社会的利益をも見返りとする(社会的責任投資)。このような動きが国際開発に今後どのような影響を与えるか、よく見極める必要がある。

「民間開発支援の役割と規模推計:日本から発展途上国へ」

山内直人氏
大阪大学国際公共政策研究科教授

日本の民間開発支援(PDA)の資金規模推計は、国際交流基金日米センターの助成により、CSOネットワークと大阪大学NPO研究情報センターが共同で取り組んでいるプロジェクトである。ハドソン研究所では「フィランソロピー」という表現だが、ODAに対比するという意味で「PDA」という言葉を使っており、ほぼ同じ意味である。

民主党政権では「新しい公共」という考え方が打ち出されているが、この考え方のグローバル版を「国際公共財」とするなら、その日本における資金規模を把握する試みともいえる。官民の役割分担・補完関係、協働、あるいは競争に貢献する作業ではないか。

財務省が取りまとめている統計(日本から途上国への資金フロー)では、「NGOによる贈与(Grants by Private voluntary agencies)」という表現でOECDに報告されているが、宗教団体、企業の社会貢献活動費等は含まれていない。この「NGOによる贈与」そのものは、増加傾向にある(2000年249億円→2010年607億円)。

ハドソン研究所の計測手法は、①助成財団、②NPO/NGO、③企業、④ボランティア、⑤大学(留学生事業)、⑥宗教団体の6分野からのフィランソロピー資金(あるいは換算額)で構成されるが、今回の日本の計測の場合は⑤大学、⑥宗教団体における既存の入手可能なデータが存在しないため、現時点ではこの2分野は含んでいない。

①助成財団については、「助成団体データベース」2009をもとに集計 (総額51~66億円)。②NGO/NPOはJANIC「国際協力NGOダイレクトリー」をもとに集計 (総額413~443億円)。③企業は経団連社会貢献推進委員会1%クラブ「社会貢献活動実績調査」2009を参考に集計(総額44億円)。④ボランティアは「寄付白書2010」をもとにボランティア時間の国際協力・国際交流分野の経済価値を計算 (総額2,605億円)。これらを合計すると、日本のPDA総額は3,158億円(33.8億ドル)となり、従来考えられていたよりも規模が大きい結果となったが、米国のようにODAを上回るほどではない。

今後ODAとの比較の関係では、少なくとも地域別の分布とセクター別の構成を明らかにする必要あり。また、NGOや助成財団の収支報告書においては、公的補助金と民間助成金、公的委託と民間委託を区別することのできないものも多く、今後、より正確な数字を計測するためには、収支報告書の書式についても提言していくことが必要だとを感じた。

「MDGs官民連携ネットワーク」のご紹介

中原直人氏
外務省国際協力局 地球規模課題総括課 首席事務官

MDGsの現状

MDGsの中で未だに進捗が遅れている分野は教育、保健分野である。初等教育完全普及に向けて進展はあるが教育分野の目標は未達成のままであり、保健分野については多くの国で未達成の見込みである。特にMDG4乳児死亡率の削減、MDG5妊産婦の健康改善の遅れは深刻である。2010年のMDGsサミットにて日本を含む主要先進国は開発分野で積極的に貢献していくことを表明し、日本は教育分野に50億ドル、保健分野に35億ドルのコミットメントを決定した。

開発途上国に対する資金フロー

開発途上国に対する資金フローの中で、近年民間資金が増えてきていること、MDGs達成のためには、民間資金の果たす役割が不可欠であり、民間セクターの貢献を正確に把握する必要があることは政府も認識している。近年、旧来の先進国と途上国の構図が変化し、新興国、emerging donorsの登場により、新たな国際協力の枠組みを模索する必要が出てきていると感じている。また、民間の資金移転増加の背景には、すでに民間資金を経済成長や開発の原資にできる段階に多くの途上国が来ているということを意味しており、その状況にあわせた国際協力が必要だと考えている。

MDGs官民連携ネットワークの立ち上げ

国際協力に関心がある企業でも、連携パートナーとのネットワークを持っていなかったり、官民の関心分野の共有が図られないために、双方で類似の事業を別々におこなったり、また開発途上国に対する資金フローを正確に把握し日本の貢献をアピールする仕組みがなかったり等、官民の連携という視点からはこれまでいくつかの問題点があった。在外公館も海外情報を持っているがその有効活用と、企業の現地での事業のきっかけやカウンターパートへのニーズをマッチングさせるべく、外務省が間に入り、官民の連携を促進していこうということで「MDGs官民連携ネットワーク」を立ち上げた。この事業により、民間によるMDGs達成に向けた取り組みを促進するとともに、具体的な成果を国内・国際的に積極的にアピールしていきたい。日本国内においては国際的なCSR活動の認知度を高めるとともに、国際社会においては日本企業のイメージ向上を図っていく。

活動内容としては、①途上国の開発ニーズ等の情報発信強化 ②開発支援事業におけるネットワーキング・マッチング支援 ③民間による国際貢献の正確な把握・広報である。

MDGs官民連携ネットワークを通じた日本企業支援

基本的に企業からの照会、情報がほしいとの要望があるところからスタートする。現在、30~40の話が動いており、大企業からの照会が多い。分野でいえば保健分野が多く、8割を占め、残り2割は教育分野である。地域別にみると6割がアフリカ地域で4割がアジア地域。具体的には、コンタクトポイントはどこか、CSRをおこなう場合、どの地域、どの分野がよいのか(できれば政府の方針に沿った形を希望)等の問い合わせが多い。中小企業からも新しい地域でのコンタクトポイントに関する問い合わせがある。活動事例としては住友化学のオリセット等が挙げられる。ケニアでの個人向けオリセット販売開始の記者会見には、在ケニア大使及び現地政府高官の出席を調整する等した。

最近の事例の照会~ゲイツ財団、パキスタン政府との連携~

これはポリオ撲滅キャンペーンをゲイツ財団がおこなっていることと、パキスタン政府に日本が有償資金協力をおこなうということがあって可能となった連携プログラムである。日本からの有償資金協力を得たパキスタン政府がワクチン配布のプログラムを実施し、WHO、UNICEFがプログラムを認定すればゲイツ財団が日本からの有償資金を肩代わりするという連携である。ゲイツ財団にとっては、日本やWHO、UNICEFがパキスタン政府との間に入ることで資金やプログラムの実施がより確実になるというメリットがあり、パキスタン政府にとっても有償資金を返還せずにポリオの撲滅を図れ、また日本にとっても一時的な借与による開発課題への貢献というメリットがある。このように三者すべてにメリットがある新たな連携の形としてご紹介する。

コメント

佐藤寛氏
アジア経済研究所 国際交流・研修室長/国際開発学会会長

①民間援助資金 規模把握の意味

民間援助の資金規模を数字で把握することの意味を問いたい。日本の政府にとっては日本の貢献を大きく見せたい、研究者は正確な数字の把握ができるといったメリットがあるが、途上国の人々、また日本の国民にとってどのような意味、インパクトがあるのか。

②今までの減らしてきた円借款はなんだったのか。

日本のODAはOECD各国とは違い要請主義をとってきた。以前は、有償資金協力が多いと非難を浴び、そのために円借款事業を減らしてきたという経緯があるが、最近ではビジネス的な資金の流れが再評価されている。この経緯や再評価をどう考えるのか。

③現地ニーズの代表性の問題

インターネットの発達により、現地のニーズがより把握できるようになったとの指摘があったが、貧困国ではインターネットにアクセスできるのは富裕層であり、貧困者のニーズを反映できるか疑問。

④官民連携(民間企業をサポートすることの意味)

近年、公的な援助には批判論が根強く、イースタリーやモヨのように、開発援助にビジネスセンスを入れて効率化すべきとの主張がある。ビジネスセクターではCSR活動等において一定の社会性が重視されてきている。だが、民間企業がおこなう事業は収益を目的としたビジネスであり、日本のODAでも一民間企業を税金を使ってサポートすることには抵抗があるのが実情。外務省は世界的な公共政策にどう取り組んでいくのか。

⑤民間開発資金の8割が保健分野であることの意味

米国の民間企業の支援では保健セクターが多いと報告されたが、それはなぜか。成果がわかりやすい分野に資金が流れやすいのではないか。逆にいえば、そうではない分野に対する公的な援助資金の担保もやはり必要といえる。

Extra 日本の寄付文化について

日本に寄付文化はないというが、ベルマーク運動というものが昔から存在しており、日本の寄付文化の原点と考える。このシステムは日本が世界で初めて導入した取り組みでありもっと評価されてよいが、これが日本の寄付文化にいかなる影響を与えたかも研究する意義がある(コーズリレーテッドマーケットとの関係等)

投資について

経済的なリターンのならずSocial Returnも重要な点。社会的価値に基づく投資により、開発効果向上もあり得るのではないか。

質疑応答・ディスカッション

ユリア・スパンタック 氏

計測をおこなうことで認識が高まり、より民間資金が増えるインパクトが期待される。援助効果については、ITの進歩によって、より良いニーズの発掘や現地組織との連携が可能になっている。代表性については確かに十分ではないかもしれないが、よりボトムアップの支援はできるだろう。

米国で保健セクターが多いのは、成果主義の主流化により、税務当局等にも説明がしやすい面もある。

山内直人 氏

日本の援助の場合、ODAとPDAの比率は10:1で圧倒的に官が主流で、民はマージナルだが、今回の推計では数千億円規模になっており、公的な援助とセットで考えていくべき。全体像を誰かが把握すべきであり、プランニングには欠かせない情報ではないか。日本の寄付金が少ないのは税控除の問題というよりも、NGOや財団の(一般の人びとへの)アウトリーチが不十分だからではないか。

フェアトレードはハドソン研究所のカウントに入っていないが、民間による貢献という意味では取り入れてもよいのではないか。日本の計測では検討したい。

黒田かをり
CSOネットワーク事務局長・理事

民間支援規模の計測の取り組みは、援助効果・開発効果の議論が出発点。まずは資金規模の実態把握ができないことにはそうした議論にもならない。

中原直人 氏

民間資金のセクター別、地域・国別の把握ができれば、ODAとの連携も具体的な議論ができ、例えばポストMDGsの文脈でも貴重なデータとなるだろう。企業との連携については、例えばTICADのように、むしろいかに民間投資や貿易につなげられるかという議論になっている。PDAはODAに取って代わるものではないが、ベストミックスが重要。

山田太雲 氏
オックスファム・ジャパン

政府と民間の役割を同一視すべきではなく、民間支援の金額を政府の資金コミットメントに組み込むことはあってはならない。企業の投資は必ずしも開発に資するとは限らず、ネガティブなインパクトもある。海外送金についても貧困層の収入源とはなっても、途上国の国造りに貢献するとは思えない。民間がやれば効率性が上がるとも言い切れない(医療サービスの質的低下の例もある)。貿易・投資との関連では政策一貫性に配慮すべき。官民連携の事例ではGlobal Fundが好例ではないか。

高橋清貴 氏
日本国際ボランティアセンター(JVC)

ITによるニーズ把握により、特定の層のニーズに偏らないか留意が必要。官民連携については、途上国の人々にとってのリスクをいかに削減するかも重要で、企業の活動・商品によりリスク管理がおろそかにならないか配慮すべき(オリセットネット等)。統計については、DAC諸国の側からの資金フローだけではなく、受け取り国の側から見た統計があるとよい。途上国内の企業、フィランソロピー等の把握も重要ではないか。

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