国連主催の第2回目となる「ビジネスと人権フォーラム」が2013年12月2日~4日にスイス・ジュネーブにおいて開催されました。同フォーラムに参加されたサステナビジョンサステイナビジョン 代表取締役 下田屋毅(ロンドン在住)さんにその報告をご寄稿いただきました。 第2回国連ビジネスと人権フォーラム報告書(PDF版598KB)
第2回国連ビジネスと人権フォーラムについて(報告)
2013年12月サステイナビジョン代表取締役 下田屋 毅
国連主催の第2回目となる「ビジネスと人権フォーラム」が2013年12月2日~4日にスイス・ジュネーブにおいて開催された。このフォーラムは、持続可能なグローバル化に貢献するために、企業と人権に関する基準と慣行の強化を目的として、国連人権理事会が2011年3月「国連ビジネスと人権に関する指導原則」を発表、この指導原則の普及を目的として、2012年から年次開催されることとなったものである。 この「国連ビジネスと人権に関する指導原則」は、全ての国家と全ての企業に適用され、
- 国家による人権保護の義務、
- 人権を尊重する企業の責任、
- 企業活動による人権侵害を受けた者への救済手段の必要性
の「保護、尊重、救済」の3つの柱をフレームワークとして、国家と企業が実施することを明確にし31の「原則」に整理されたものだ。ビジネスと人権フォーラムは、次を主要目的としている。 ① 世界の全地域からのステークホルダーに対し、「ビジネスと人権」に関する対話の為の主要な会合場所を提供する。 ② 指導原則を世界に拡散し実施の促進、また効果的で包括的なエンゲージメントの強化。 ③ 指導原則の実施にあたりトレンドと課題、模範事例を見つける手助けをすること。
フォーラムは、2012年の1000人を大幅に上回り参加登録数が1700人を超え関心がより高くなっている。参加登録者の内訳は、各国政府関係者 11%、企業・法律・コンサルティング関係者17%、市民社会・先住民族組織33%、大学・研究者9%、国レベルの人権機関4%、労働組合ネットワーク 1%、国連・国際機関6%、その他17%、であり、市民社会・先住民族組織が1/3と関心が高いが、企業からの参加が17%と2割に満たない状況である。 Fjallraven Kanken No.2 日本関係の参加者は、政府関係者はいたようだが正式な代表を送ってはいなかったようだ。また一般企業からの参加は日立製作所、NGOでは反差別国際運動大阪デスク、経済人コー円卓会議日本委員会、また大学研究者と、日本関係者は全体で10人前後と関心が高いとは言えず残念であった。
2012年の第1回目の議長は、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」をとりまとめた主要人物である、ジョン・ラギー教授が務めたが、第2回目の今回は、アセアン・ファンデーションの常任理事であるマカリム・ウィビソノ博士(元国連人権委員会議長、元インドネシア大使)が務めた。 ビジネスと人権フォーラムの本会議(12月3日・4日)において、開会式と閉会式を除いた20のテーマ別セッションは、2013年から基本的に同じフォーマットに従って導入され、モデレーターの監督の下に会場の参加者が発言できる時間が確保された。本会議中、パネリスト、コメンテーター、および会場からの発言者は、時間制限が課され、パワーポイントやその他の視覚的なプレゼンテーションは許可されていない。各セッションのパネリストは、開会の辞に7分、コメンテーターは5分、会場からの発言者は1回2分の時間が割り当てられている。会場の異なるステークホルダー・グループの参加者すべてに発言する権利があり、そのグループは、次の3つのカテゴリに大きく分けられた。
- 各国政府、各国人権機関、国連機関、政府間機関、地域機関、
- 企業、専門家組織、ネットワーク、法律事務所、コンサルタント、
- 市民社会団体、労働組合代表、先住民団体、影響を受けるステークホルダー、大学・研究者、マルチステークホルダー・イニシアティブ等。
各セッションでは、パネリストの報告の後に、これらの3つのカテゴリのステークホルダー・グループが順番に発言の機会が与えられた。これは、人権理事会によって各セッションへ要求されたもので、マルチステークホルダーダイアログの質を高めるのに役立つことを目的として、各国政府、市民社会、およびその他の参加者すべてが対等な立場で参加し発言することができるようにしたものである。各セッションでは、3つのステークホルダー・グループの中でも、市民社会団体が会場の一番前に準備されている発言席に移動し順番待ちをするなど活発に発言をしていた。(時間内にモデレーターが順番に発言の機会を与えるが発言席に移動した全ての人が発言できるわけではない。)特に先住民族からの意見として、多国籍企業による天然資源開発に関わる土地の収奪・環境汚染による人権侵害を伝え、国連のワーキング・グループに状況確認の為のサイトビジットを訴えるという場面も多く見られた。 Nike Air Jordan Baratas
フォーラムへ向けた市民社会組織の活動
当初、国連ビジネスと人権に関する指導原則は、企業の説明責任のグローバルな議論への潜在的な変革をもたらすものとして認識されていた。 Adidas Nmd Pk Runner しかし市民社会組織は、昨年の第1回ビジネスと人権フォーラムについて、方向性がなく、効果的なものではなかったと認識、さらに、国連のワーキング・グループが、国連システム内で決定力と影響力に欠け、国家レベルで発生している人権侵害に影響を及ぼすことができないと市民社会組織は感じていた。 また、同フォーラムでは市民社会組織として、それぞれがサイドイベントの開催、また本会議中の発言も許されていたが、同フォーラムにおいて市民社会組織内の意見や懸念を共有する集会を開催することができなかった 。そのため市民社会組織は、指導原則と国連のワーキング・グループが機能するように、それを促すメッセージを発信するために、次を今回の第2回目のフォーラムの目的とした。
- フォーラムに市民社会組織が積極的に参加し、政府、市民社会、メディアに強いメッセージを送り、企業の説明責任/責任をより強く求める。
- 国連のワーキング・グループの今後の3年間の任務に影響を与えることができるように、国連人権理事会に対するワーキング・グループの成果報告書に市民社会のメッセージが強く反映されるように促す。
- 本会議のパラレルセッションで何が話合われているか、市民社会組織同士でお互いに共有し、効果的にワーキング・グループとフォーラムに対して市民社会組織の位置づけが向上するように協力する。
市民社会ダイアログ
上記を踏まえ、市民社会組織は、ビジネスと人権フォーラムの本会議前日の12月2日に「市民社会ダイアログ」としてサイドイベントを開催した。主催は、「国際企業説明責任円卓会議 (ICAR)」「多国籍企業に関するリサーチセンター (SOMO)」「ビジネスと人権リソースセンター」「人権国際連盟(FIDH)」の4団体。パートは2部構成で、ディスカッションのトピックは以下のとおり。ディスカッション1として、①ガバナンスが弱い地域、②市民社会の 能力の欠如と指導原則についての低い意識、③国家による指導原則の実践の欠如、④国際的なメカニズムの欠如、⑤救済メカニズムの欠如、⑥企業の人権侵害に おける人権デューディリジェンスの抑圧、⑦企業による人権デューディリジェンスの実践の欠如。ディスカッション2として、①国際文書、②企業の人権侵害に対する救済へのアクセス、③人権デューディリジェンスの保護の確保、④市民社会に対するキャパシティビルディング、⑤より強い国連ワーキング・グループ、⑥指導原則の国家での実践、⑦指導原則の企業での実践。 市民社会組織は、翌日からの本会議に備えるために、このフォーラムに関する情報共有サイトとして、「UN Forum Watch」のサイトを立ち上げた。 air max 1 pas cher ( http://www.escrnetpeoplesforum.org/unforumwatch/ ) このダイアログでは、指導原則でいう国が人権の保護の役割を果たしていないことが強調され、法整備が整っていないことが問題だとしている。市民社会組織の大方の意見としては、非財務情報の開示の国別の実施があるように、「ビジネスと人権」についての条約・法規制による拘束力を強め、条約・法令違反に対する制裁を行うことにより、人権配慮が進むことを臨んでいる。 Nike Sko Nettbutikk これは、指導原則について企業の責任において人権配慮をするものであるが、自主的に実施するものとの位置づけから、企業の取り組みが進んでいない状況があることを指摘している。また、企業の人権に関する説明責任と透明性が確保されていない、苦情処理メカニズムが機能しておらず人権侵害を受けた被害者の救済措置が整備されていない(実際に企業による人権侵害が行われている事例が数多く紹介された)ことがあり、改善をさらに積極的に促すことが必要との意見がなされた。また、市民社会組織の中には、法的拘束力が及ぶようにすることを促すことも必要だが、現状では指導原則を企業にうまく活用できるように促すことが重要だという意見もあった。 Nike Air Max 2017 Heren groen
国家での取り組み
指導原則に則った国家の取り組みについて、市民社会団体から多く指摘がされる中、国家としての取り組みについて言及しておく。世界の各地域の中で、国家行動計画の取り組みが進んでいる地域はEUであり、「欧州委員会CSRについてのEU新戦略に関するコミュニケーション」の2011-14の行動計画の中で、全てのEU加盟国に指導原則の導入についての国内の行動計画を2012年末までに立てることを勧めている。また、2012年欧州理事会はこれを後押しするものとして、全てのEU加盟国に2013年末までに指導原則の導入に関する国家行動計画の開発について要求、最近、欧州委員会はEUレベルでの指導原則の実践に関する計画を立てることを約束した。英国は、2013年9月4日に国家行動計画として「グッドビジネス:国連ビジネスと人権に関する指導原則の実践」発表。これは世界で初めて、指導原則の実践を国家行動計画として定めたもので、英国の今後2年間の行動計画が定められている。計画は、全ての英国政府の省庁に適用され、英国内にある全ての企業に取り組みを促すものだ。現段階で、指導原則に則り国内行動計画を発行しているのは英国だけであり、今回のフォーラムにおいても、英国政府代表がその行動計画の取り組みについて主張し、市民社会組織もその点について評価を示していた。その他のEU加盟国の中では、オランダ、スペイン、イタリア、フィンランド、デンマークが、国内行動計画の発行に向けて準備をしており、2013年中、あるいは、2014年に発行予定である。 米国政府はまだ指導原則を導入するための国家行動計画ついて正式に、特定のプロセスまたはその計画を開発するための明確な意思を発表していない。しかし、今回のフォーラムでは、米国政府代表からミャンマーにおいて50万ドルを超える投資等をする米国の個人・企業については人権、労働者の権利、汚職、環境方針とその手順について報告書を提出することが2013年6月より法令により義務付けられていることの報告がなされた。
2014年は行動の年
ビジネスと人権フォーラムの閉会式は、メアリー・ロビンソン氏(前アイルランド大統領、元国連人権高等弁務官、メアリー・ロビンソン財団:気候正義・代表)の辞が非常に印象的だった。彼女は、2014年を、人権・気候変動への対応の行動と実践の年とすることを、各国政府、企業、市民社会に対して、強く嘆願し、会場から大きく共感を得ていた。この場での盛り上がりに終わらずに、この会場の雰囲気が世界・日本へも広がり、国家・企業それぞれが行動に繋げられることを願っている。 Air Jordan 1 Retro この第2回国連ビジネスと人権フォーラムは、日本からの参加は前述のとおり少なく存在感がなく非常に残念である。このフォーラムの印象としては、国レベルでの活動状況、企業の推進事例や、企業に関わる人権侵害の現状把握、そして、先住民族の訴えも含めた市民社会側の意見を伝える場として機能し、ネットワーキングの時間も含めマルチステークホルダーの対話ができる実践的で意義があるものと感じた。このフォーラムは、参加を望めば誰でもが参加できるものである。次回2014年のフォーラムでは、日本国としては代表を送り国家としての取り組みを発表する場として、企業の方々には、自社の指導原則の取り組みを発表する場として、また、NGOの方々には、自分達が日頃感じ取り組んでいることの意見を発信する場として、そして世界での企業に関わる人権の議論に加わり、それを肌で感じ、今後の実践にさらにつなげる機会として、日本関係者には是非足を運んでいただきたいと思う。