第3回国連ビジネスと人権フォーラムについて(報告)

01.21


第3回国連ビジネスと人権フォーラム報告書(PDF)

2014年12月
サステイナビジョン
代表取締役 下田屋 毅

第3回国連ビジネスと人権フォーラムについて(報告)

国連主催の第3回目となる「ビジネスと人権フォーラム」が2014年12月1日~3日にスイス・ジュネーブにおいて開催された。このフォーラムは、持続可能なグローバル化に貢献するために、企業と人権に関する基準と慣行の強化を目的として、「ビジネスと人権に関する指導原則」が、2011年6月16日に国連において、全会一致で承認され、この指導原則の普及を目的として、2012年から年次開催されることとなったものである。

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

この「国連ビジネスと人権に関する指導原則」だが、ハーバード大学のジョン・ラギー教授が、2005年から国連事務総長特別代表を務め「保護・尊重・救済のフレームワーク」として取りまとめたものである。

これは、①国家による人権保護の義務、②人権を尊重する企業の責任、③人権侵害を受けた者への救済へのアクセス、から構成され、「人権の尊重」、「救済へのアクセス」に関して企業の取り組みが必要とされている。そして、企業には人権を尊重する責任を果たすというコミットメントとしての「人権方針」の作成、そして人権への対処の責任をもつプロセスとしての「人権デュー・ディリジェンス」を実施すること、そして「苦情処理メカニズム」と呼ばれる救済制度を設け、その実効性を確保することが求められている。

また、年次開催されている国連ビジネスと人権フォーラムは、次を主要目的としている。

① 世界の全地域からのステークホルダーに対し、「ビジネスと人権」に関する対話の為の主要な会合場所を提供する。

② 指導原則を世界に拡散し実施の促進、また効果的で包括的なエンゲージメントの強化。

③ 指導原則の実施にあたりトレンドと課題、模範事例を見つける手助けをすること。

ビジネスと人権フォーラムは、2012年の第一回の参加登録者数は、1000人、2013年の第二回は1700人、そして2014年の第三回は2000人ということで年々参加者数が増え関心が高くなっている。日本関係の政府・企業・NGO・大学に関する参加登録者だが、独立行政法人からジェトロ・アジア経済研究所、一般企業は、日立製作所、日立ヨーロッパ、NECヨーロッパ、JTインターナショナル、新日本有限責任監査法人、創コンサルティング、サステイナビジョン、NGOからは経済人コー円卓会議日本委員会、大学関係は、立命館大学で、日本関係者は全体で15人弱とみられ昨年に引き続き参加者が少ない状況だった。

<開会式>

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

開会の辞

2014年のビジネスと人権フォーラムのテーマは「グローバルにビジネスと人権を推進する:調整・順守・説明責任」。開会の辞で、国連人権高等弁務官ゼイド・ラアド・アル・フセイン氏は、ちょうど30年前の12月2日深夜に発生した、インド・ボパールの農薬製造工場の有毒ガスの漏えいによる数千人もの犠牲者を出した産業事故について言及、「言いようのない悲劇であり、多くの点でターニングポイントであった。ビジネスが人権に与える負の影響に新しい関心を与え、正義と説明責任を求める声が高まった。」と述べた。また、「国連人権理事会は、人権と多国籍企業に新たな、法的拘束力のある条約に関する作業を開始することを決定した。この決定は、いくつかの議論を引き起こしたが、我々は今、政治的論争が行動の障害にならないようにする必要がある。この条約に関する交渉が来年に開始され、その点において時間がかかる一方、我々は指導原則の実施を促進していかなければならない。」と昨今の人権理事会の行動について説明した。

2014年ビジネスと人権フォーラム議長
写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

第三回目である2014年の議長は、アフリカ出身のイブラヒム財団議長、モー・イブラヒム博士が務めた。ユーモアを交える話ぶりの中にも議長としてのリーダーシップを発揮するものであり、この会議が参加者にとってより有意義で進展のあるものにするように促しているのが非常に印象的だった。

モー・イブラヒム博士は、開会式において、既存の「国連ビジネスと人権に関する指導原則」の周辺には何が来るべきかを問題提起し、「測定」、「監視」、「報告書の公表」について会場に問いかけた。イブラヒム博士は、「各国政府は、国家行動計画を発行しなければならない。企業は、企業の計画を開発する必要がある。市民社会は、国家と企業が計画を出すことを支援する必要がある。しかし、それぞれの計画は単独では十分ではない。我々には、測定のツールと進捗状況を報告するためのツールが必要である。国連ビジネスと人権に関する指導原則は素晴らしいが、誰もこれを導入せず、測定もしていない場合、価値がない。この場合我々はすべての時間を無駄にしている。」と述べ、これらツールの必要性を強調した。

企業の基調講演
写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

開会式では他に、企業側の代表者の講演とパネルディスカッションがあり、ユニリーバCEOのポール・ポールマン氏、そしてネスレCEOのポール・ブルケ氏等がそれぞれ基調講演を行った。企業側のビジネスと人権の指導原則についての取り組みを伝え、ビジネスを行う上での人権の尊重、人権に対する配慮の継続性、そしてトップがコミットメントし、そのリーダーシップを表すことの重要性を訴えた。

フォーラムのフォーマット

 

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

フォーラム内のセッションは、12月1日~3日の3日間で、開会式(2日)と閉会式(3日)を除いた国連主催のセッションは22個、他のステークホルダー主催のサイドイベントは34個にものぼり、それぞれパラレルで別々の部屋で行われた。国連主催のセッションは、英語、フランス語、スペイン語の同時通訳が用意され、開会式と閉会式は、それにロシア語と中国語の同時通訳が入った。基本的に同じフォーマットに従って導入され、モデレーターの監督の下に会場の参加者が発言できる時間が確保されている。セッションでは、パネリスト、コメンテーター、および会場からの発言者は、時間制限が課され、今回はパワーポイントによる視覚的なプレゼンテーションも用いられた。各セッションのパネリストは、開会式・閉会式では7分、会場からの発言は1回2分以内の時間が割り当てられた。

<第3回ビジネスと人権フォーラムで注目された議論>

第26回国連人権理事会決議26/9

今回のフォーラムで、特に注目されたのは、2014年6月にエクアドル・南アフリカから提起され決定された国際的な条約締結による法規制化へ向けた国連の作業部会の設置についての第26回国連人権理事会決議26/9についてである。現時点では、国際的な合意に基づく「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った企業の自発的な活動に委ねられているが、2015年7月には、国連人権理事会の作業部会において条約による法規制化を検討する作業が始められることになっている。

法規制化の流れについて補足しておくと、この歴史的な背景に、かつて国連で「多国籍企業及びその他の企業に関する規範」が、人権委員会の専門家による補助機関で起草され、本質的に国家が批准した条約の下で人権の義務を直接に企業に課そうとする動きがあった。しかしこの提案は、経済界と人権活動団体との間に埋めることのできない溝を作りだし、政府からの支持もほとんど受けられず、国連人権委員会は、この提案に関し意思表明をすることさえしなかった。そのことを踏まえ新たな取組みとして、2005 年に「人権と多国籍企業及びその他の企業の問題」に取り組むためにジョン・ラギー氏が国連事務総長特別代表に任命され、広範にわたる体系的な調査研究の末、2011年に発表したのが「国連ビジネスと人権に関する指導原則」なのである。このような歴史的な背景から、この条約による法規制化が、国連ビジネスと人権に関する指導原則の進展を弱める可能性があるとの懸念が指摘されていた。

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

 

今回は、その条約締結による法規制化を提起したエクアドルのサイドイベントが2回開催され、エクアドル国連代表参事官ルイス・エスピノーサ・サラス氏が、エクアドルが提起にいたった理由を述べるなど関連するディスカッションが行われた。決議26/9として作業部会が2015年7月から議論が始まるが、それまでの間にこの活動を効果的に進めることができるようにエクアドルは提起した南アフリカなどと活動をしていくという。このセッションの議論の中には、「指導原則の3つ目の柱である救済の部分が非常に弱いため、それをサポートするために条約による拘束力のある規制化をするべき」という意見や、「この条約が指導原則を弱めるのではなく、より強固になるようサポートできる法律制定をすることが必要だ」という意見があった。

国家行動計画

現段階で、国家行動計画を作成している国は、英国(2013年9月)、オランダ(2013年12月)、イタリア(2014年3月)、デンマーク(2014年4月)、スペイン(2014年6月)、フィンランド(2014年10月)で、その他のドイツなど十数か国が国家行動計画を作成することを表明している。

このビジネスと人権に関する「国家行動計画」の策定を各国政府が促進するために、国連のビジネスと人権に関する作業部会は、12月1日に「ビジネスと人権に関する国家行動計画のガイドライン」を発表した。このガイダンスは、各国政府、企業、市民社会、人権関係団体、学術研究機関を巻き込み、グローバルに開かれた一年間の協議プロセスを経て作成された。これは、国家行動計画の開発、導入、そしてアップデートについての推奨事項を提供している。

また国家行動計画についての他のアプローチとしては、ICAR(The International Corporate Accountability Roundtable)とデンマーク人権研究所(DIHR)が、「ビジネスと人権に関する国家行動計画:ビジネスと人権のフレームワークへ向けた国のコミットメントの開発・導入・レビューの為のツールキット(NAPツールキット)」を2014年6月に発表している。このNAPツールキットは、国家行動計画を評価することができる25の基準を提供している。

また、ICARとECCJ(The European Coalition for Corporate Justice)は、2014年11月「ビジネスと人権に関する既存の国家行動計画の評価(Assessments of Existing National Action Plans (NAPs) on Business and Human Rights)」を発表。このプロジェクトは、ICARとデンマーク人権研究所作成の「NAPツールキット」を使用し、既存の四か国の国家行動計画(英国、オランダ、デンマーク、フィンランド)の評価を実施した。模範事例、そして今後の改善の領域の提案のため、内容とプロセスについて分析している。

<市民社会組織>

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

フォーラムへ向けた市民社会組織の活動

2014年11月27日にCIDSEとそのメンバー団体は、ビジネスと人権フォーラムに先駆けて「国連ビジネスと人権のフレームワーク:国内・国際レベルで企業による人権侵害を止めるために必要とされるさらなる行動」を発表。 国連ビジネスと人権の指導原則が、企業の自主的な対策ばかりでなく、政府による規制を含む「スマートミックス」の必要性を明確に設定しているとしている。そして、もし指導原則が効果的に導入されれば、人権侵害のリスクを低減するための貴重なツールになりうると考えているが、現段階での国と企業の指導原則の導入は、特に優先順位の高い救済へのアクセスについて不十分であるとしており、より早い効果的な導入を求めている。国際的な法的拘束力のある条約制定に向けた新たなプロセスについては、慎重に開発をしていけば、企業の人権の尊重を保証するための重要な追加的ツールとなり得るとし、条約制定による法的強制力と自主的な取り組みである指導原則の両方のアプローチを必要とし、条約が指導原則を補い、強めることができるものであるとしている。

CIDSEは既に積極的にオーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、アイルランド、スイス、英国などの国のビジネスと人権に関する国家行動計画の議論に参加しており、パートナーとの協力により現地の状況を監視、評価している。現段階でフランスやスイスなどが国家行動計画の作成の最終段階に入っているが、既存の国家行動計画は具体性に欠けるとし、国家行動計画を既にもつ国々が、国内で指導原則を強化・効果的に導入することができるように強制力のある法律や規制を制定することで、国連による条約による法制化について他の国々の意思決定を後押しし、確信をもたせることができると主張している。

先住民族の訴え
写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

世界から先住民族の代表者達が集まり、ビジネスと人権フォーラムに先駆けて2014年11月30日に会議を開催し先住民族の意見を取りまとめている。その内容を伝えるサイドイベントが、12月1日に開催されている。先住民族としては、国家と国連ビジネスと人権作業部会に対して、国家行動計画を策定する際に、先住民の権利に関連するすべての国際条約と規格との整合性を図ることを求めている。そして最低でも、2014年9月22日に総会で採択された、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」、「先住民族に関する世界会議」の成果文書、そして「ビジネスと人権に関する指導原則」に関連する先住民族の専門家機構への推奨とそれらの研究を行うことを主張している。 先住民は、国家の保護の義務、企業の人権の尊重、包括的な救済へのアクセスを確保するための緊急の必要性について、作業部会へ、そしてビジネスと人権フォーラムにおいて次のことを要求した。

先住民族が求める国家の保護の義務:国家が先住民族の生活を守り、すべての種類の脅威から先住民族を保護する必要がある。国家が毒性農薬と殺虫剤の生産と輸出を中止するだけでなく、先住民族の土地、地域、水源での使用を禁止すること、先住民族の土地・地域・領土・水に影響を与えるリスクを無くし、単作プランテーションの拡大と遺伝子組み換え作物の使用を防ぐこと等。

先住民族が求める企業の人権尊重:企業活動によって先住民族の自由や優先権、重要事項に関する情報提供のプロセスが犠牲となっている時の企業の補償を確保すること。 先住民族の生活の質と生活環境の向上に貢献しない企業の操業ライセンスの取り消し。企業が経済的、政治的な圧力を利用して、先住民族のコミュニティ内における分裂や対立を引き起こすことをしない。人権侵害の被害者に司法へのアクセスと司法の独立を確保することに貢献すること等。

先住民族が求める救済へのアクセス:国家が人権侵害の被害者の司法へのアクセスを確保する。司法へのアクセスを促進するために、国家が司法の独立を強化、被害者をサポートするための必要なリソースを提供する。先住民に対する性的暴力や過度の実力行使について深い懸念を表す。国家行動計画は、関連会社や子会社の先住民族の人権侵害について親会社の法的責任を含める。被害者が、自国で裁判できない場合、域外管轄権の実施を含める。企業は先住民族に配慮した総合的な救済のメカニズムを導入する。ビジネスと人権作業部会は、国家行動計画を含め、救済へのアクセスを保証の措置を策定することにおいて、先住民の完全で効果的な参加を確保する等。

先住民族の代表者会議は、今後の国連ビジネスと人権フォーラムに公式の手続をして積極的に参加していく機会を作り推進・支援することを作業部会に促すとしている。そして、すべての今後のビジネスと人権フォーラムの議題に恒久的な項目として、先住民族が含まれるように作業部会に依頼し、今後フォーラムの開会と閉会においての宣言の機会についても要求した。

最後に、2014年9月に発生したメキシコ・イグアラ市アヨツィナパ学生集団失踪事件についても言及し、メキシコの警察のメンバーによって誘拐された43人の学生の安全な帰還ができるように要求した。

ビジネスと人権についての企業ランキング

興味深いものとして、企業の人権の尊重に関するパフォーマンスについてランキング付けをする取り組みについての説明があった。これは取り組みが進んでいる企業の模範事例を伝えるとともに、取り組みが遅れている他の企業に対してそれを促すことを目的としている。既に機能しているランキングとして、「アクセス・トゥ・メディシン・インデックス」「ビハインド・ザ・ブランド」、これから始められるものとして「企業人権ベンチマーク」「ランキング・デジタル・ライツ・プロジェクト」がある。

アクセス・トゥ・メディシン・インデックス(Access to Medicine Index):オランダのNPOアクセス・トゥ・メディシン財団が運営しているインデックスで、世界の大手製薬20社を対象として途上国において患者が必要とする医薬品を使えるようにする努力をしている製薬会社のランキング。2008年からインデックスの公表がスタートし、それ以降2年に1度インデックスが発表されている。

ビハインド・ザ・ブランド (Oxfam Behind the Brands):ビハインド・ザ・ブランドは、オックスファムのキャンペーンとして2013年に開始され、食品会社・飲料会社それぞれ世界トップ10のサプライチェーンを評価したもの。スコアカードは、次の7つのカテゴリーで構成されている。①企業レベルでの透明性、②サプライチェーンにおける女性農場労働者と小規模生産、③サプライチェーンの農場労働者、④農民(小規模)商品、⑤土地の権利と土地へのアクセスとその持続可能な利用、⑥水の権利と水資源へのアクセスとその持続可能な利用、⑦気候変動、温室効果ガスの排出量の削減と農家の気候変動適応の支援。

企業人権ベンチマーク:本フォーラムにおいて「企業人権ベンチマーク(Corporate Human Rights Benchmark: CHRB)」が正式に立ち上げられた。これは、NGOビジネスと人権リソースセンター、IHRB(Institute for Human Rights and Business)、また責任投資会社のアビバ・インベスターズ(英国)、カルパース(米国)、VBSO(オランダ)、そして投資リサーチ会社EIRISのグループが中心となり、グローバル企業の人権に関するパフォーマンスをランキング付けする世界規模の初めてのプロジェクト。この「企業人権ベンチマーク」は、企業の人権に関するパフォーマンスについて、透明で、公的に入手可能で信頼できるベンチマークの開発によって、責任ある事業活動を推進することを目的としている。このスキームは、強固なベンチマークを作成し、次を可能にする。

• 人権の企業パフォーマンスをより見やすく、よりシンプルに理解できるようにする

• パフォーマンスが低い企業を強調し、良い企業は高いランク付けと恩恵を受ける

• 投資家・社会・規制当局が、パフォーマンスが他社との比較において遅れている企業に要求できる

• 企業活動の中で、ポジティブで競争力のある環境を導入することができる

グローバル企業のトップ500社について、農業、ICT、アパレル、採掘産業の4つの主要セクターを最初にリサーチを行い、ランク付けする。このCHRBの参加団体は、人権のエキスパートとの相談を行い、2016年から開始される。英国ビジネス·イノベーション·職業技能省は、このイニシアティブのための最初の資金として£80,000をサポートすることを決めている。

ランキング・デジタル・ライツ・プロジェクト:情報通信技術(ICT)セクター企業の自由な表現とプライバシーの尊重をランキングする仕組みで、2015年下半期に公開される予定。

<閉会式>

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

エクアドル国連代表参事官スピーチ

エクアドルの国連代表参事官ルイス・エスピノーサ・サラス氏は、閉会式においてもパネルとして出席、多国籍企業による人権侵害が防ぎ切れていないのは国際的な規制がないからであるとし、インド・ボパール、バングラデシュ・ラナプラザ、シェル・ナイジェリアのナイジャーデルタ、シェブロン・テキサコのエクアドルでの人権侵害のケースについて言及。多国籍企業による効果的な救済と犠牲者への賠償ができるように決議26/9によるこの条約の制定による規制化の必要性を訴えた。

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

アムネスティ・インターナショナルスピーチ

閉会式で、アムネスティ・インターナショナルのグローバル問題担当オードリー・ゴーグラン氏は、「3年前の指導原則が出る前から状況は変わっていない」と述べ、さらに「指導原則のより実効的な導入が望ましいが、これは起きそうもない。」とし、法律によって人権侵害を食い止めるしか手立てはなく多国籍企業による人権侵害法律を食い止め、救済を行うように法律の必要性を訴え、「今こそ条約による規制化が必要である。我々には条約が必要なのである。」と述べ、閉会式における一番の拍手を受けていた。

ジョン・ラギー教授の付言
写真:筆者撮影

写真:筆者撮影

 

また前国連事務総長特別代表であるジョン・ラギー教授は、指導原則が適用されている場所においては、人権危害の発生率が低下している証拠があり、人権デュー・ディリジェンス及び苦情処理メカニズムが効果を上げていることを強調した。また、「私は、指導原則の導入とさらなる国際的な法制化に本質的な矛盾はないとみている。従って、条約交渉が展開し、我々は指導原則と条約の間の議論が二極化しないように可能な限り強く促している。」と述べた。またラギー教授は、指導原則はOECDやISO、IFOなどの公共および国際機関の政策に組み入れられ、また、地域のイニシアティブ、EU、ASEAN、アフリカ連合などにも記載されていることを述べ、指導原則が浸透してきている実績を強調した。そして現在エクアドルなどから提起されている条約による法制化については、「多国籍企業だけを取り上げるのは問題であり、国内の企業を含むすべての企業が対象となるべきである」と世界の多国籍企業はもはや、欧米のみならず中国やインドなどの新興国からの企業もあることを事例として挙げた。また「条約ができたとしても効果のない条約は数多く存在し、その実効性には疑問がある」とし、「今まで見てきたように指導原則は機能する。しかし、指導原則は魔法のように自分で導入されることはない。今までどおり指導原則の導入にあたり、一歩一歩着実に進むことが非常に重要だ」と述べ指導原則をこれまで以上に推進をしていくことを促した。

<まとめ>

この第3回国連ビジネスと人権フォーラムは、昨年同様日本からの参加は少なく非常に残念だった。今回のフォーラムの印象としては、条約による法制化を求める大きな流れの中で指導原則をどのように進めていくのかについて議論をする非常に重要な位置づけであったと認識している。そして企業による指導原則の推進事例の紹介、NGOのそれぞれの立場からの意見の発信、また先住民族の方々が涙ながらに企業の人権侵害を訴える状況を目の当たりした、世界で起きている企業の人権への取り組みと人権侵害について肌で感じることができるものであり、様々なステークホルダーとの対話ができる実践的で有意義な機会であったと考えている。

このフォーラムは、登録制だが誰でもが参加できるものである。次回2015年のフォーラムの日程は、既に2015年11月16日~18日と決定している。国、企業、市民社会それぞれの立場から、指導原則に関する取り組みや意見を発する場として是非足を運び、世界のビジネスに関わる人権の議論に加わり、今後の実践にさらにつなげる機会として欲しい。

 

以上

寄稿:サステイナビジョン 代表取締役 下田屋毅(ロンドン在住)
http://www.sustainavisionltd.com/

 

 

関連記事

ページ上部へ戻る