G7伊勢志摩サミット報告 -3- NGO記者会見 責任あるサプライチェーンと質の高いインフラ投資

06.14


責任あるサプライチェーンと質の高いインフラ投資

IMCオープン初日の5月25日、「責任あるサプライチェーンと質の高いインフラ投資」をテーマにNGO数団体で記者会見を行いました。CSOネットワークより黒田事務局長が登壇し、NGO 60数団体で署名された提言の内容を紹介しました。

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責任あるサプライチェーンについては、昨年のエルマウ・サミットで議長国ドイツが初めてアジェンダとして取り上げ、G7として「国連ビジネスと人権行動原則」の推進などの合意がなされましたが、今回は残念ながら議論されず、G7アカウンタビリティ報告書において進捗報告が掲載され、首脳宣言では貿易のパラグラフで「我々は、国際的に認められた、労働、社会及び環境の基準が、世界的なサプライチェーンにおいてより良く適用されるよう引き続き努力する」との一文が盛り込まれただけに終わりました。

【記者会見関連資料】

• IMC記者会見案内
• 責任あるサプライチェーン提言書(日本語) English Policy Recommendation (RSC)
責任あるサプライチェーン記者会見記録

NGO記者会見記録 責任あるサプライチェーンと質の高いインフラ
– G7各国はビジネスと人権に関する取り組み強化を-

2016.5.25(水)18:00-18:45
G7伊勢志摩サミット国際メディアセンター NGO作業スペース記者会見場

司会 堀江由美子(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドボカシー・マネージャー)

私たちはサプライチェーンにおける人権、環境問題といった負のインパクトに対し、責任ある取り組みを求めるNGOの有志です。今からこの「責任あるサプライチェーン」と、G7サミットの議題となっている「質の高いインフラ」について記者会見を行います。本日は、4名のスピーカー、すなわちCSOネットワークの黒田さん、ワールド・ビジョン・ジャパンの片山さん、志澤さん、JACSESの田辺さんに登壇いただきますが、まず黒田さんからは先般作成した市民社会の提言全般についてご紹介をいただきます。

黒田かをり(CSOネットワーク事務局長・理事)

グローバル化の中で国境を超えて伸長するサプライチェーンですが、その先に連なる農園、工場などの現場では、子供の権利の侵害、強制労働、土地収奪、環境汚染、劣悪な労働環境など、様々な人権侵害や環境破壊が引き起こされています。日本においても人権侵害が報告されています。企業には、その事業活動が及ぼす環境・社会・経済への悪影響を最小にし、長期的にプラスの影響を及ぼすことが今まで以上に求められています。

国際社会でもこの問題を重視し、2011年6月には「国連ビジネスと人権に関する指導原則」が国連人権理事会で採択されています。この指導原則は、OECD多国籍企業行動指針やISO26000(社会的責任の規格)においても影響を及ぼしてきました。今月末からILO総会が開催されますが、そこでもグローバル・サプライ・チェーンにおけるディーセント・ワークの問題は取り上げられますし、ISOでは持続可能な調達も規格として設定しようという状況です。

昨年G7エルマウサミットではG7首脳がこの問題に初めて言及し、首脳宣言にかなりの分量を盛り込むという画期的なことが起きました。G7は責任あるサプライチェーンを促進することを約束し、国連ビジネスと人権に関する指導原則の遵守を表明しました。しかしこのような約束にもかかわらず、また市民社会の要請もあったにもかかわらず、今回の伊勢志摩サミットでは盛り込まれなかったことは非常に残念に思っています。

したがって私たち国内外の60数団体は、G7各国政府、とりわけ議長国である日本に対して、6つの措置を取ることを求めました。お手元に配布している提言をご覧いただきたいと思いますが、時間がないので3つだけお話ししたいと思います。1つは、責任あるサプライチェーンをしっかり議論して欲しいということと、G7エルマウサミットで約束したことを履行してほしいということ。2つ目は、その履行についてG7アカウンタビリティレポートでしっかりと評価してほしいということ。先週発表された進捗レポートではデータがないのでスコアがつけられないと書いてありました。合意されたベースラインデータがないという理由でしたが、そうであればその点についてしっかり合意してほしいと思います。3つめは、ビジネスと人権に関する指導原則を実施するための「国別行動計画(NAP)」が去年の首脳宣言に盛り込まれましたが、G7では日本とカナダがまだ実行していません。特に日本政府には作成プロセスを正式に開始するよう強くお願いしたいと思います。

最後に、「質の高いインフラ投資」もサミットのアジェンダに上がっていますが、こういった大規模なインフラ投資自体がコミュニティに対してマイナスの影響を与えていることも事実ですので、質の高いインフラ投資といった際には人権や環境を尊重していくべきで、その意味での質の担保を求めたいと思います。

司会 堀江由美子(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドボカシー・マネージャー)

続きまして、ワールド・ビジョン・ジャパンの片山さん、志澤さんより、具体的な事例についてお話しいただきたいと思います。

片山信彦(ワールド・ビジョン・ジャパン 常務理事・事務局長)

ワールド・ビジョンは子どもにフォーカスした働きかけ、特に子どもの人権、児童労働やトラフィッキングについて取り組んできましたが、それらがグローバルなサプライチェーンに組み込まれているという具体的な調査の報告をしたいと思います。担当の志澤より報告をさせていただきます。

志澤道子(ワールド・ビジョン・ジャパン アドボカシーオフィサー)

黒田さんより責任あるサプライチェーンの問題について概要を説明いただきましたが、私の方からは特に児童労働、人身取引についてお話ししたいと思います。配布資料の写真にありますように、例えばコンゴ民主共和国(DRC)のカタンガ・コッパーベルトの鉱山では15歳未満の子どもたち約3万人が働いており、中には6歳の子どもも含まれていると報告されています。世界では1億6,800万人の子どもたちが児童労働に従事していますが、そのうち約半分の8,500万人がとりわけ危険で有害な労働に従事しています。特に鉱山の場合は、最悪の形態の児童労働の一つと言われ、コバルトの採掘などによる健康被害も深刻です。ワールド・ビジョンがDRCのカンボヴェ地域の鉱山で行った調査では、労働環境自体が劣悪なため子どもたちが気管支炎や下痢など感染症のリスクにもさらされています。他のNGOも指摘しているように、コバルトはリチウム電池の材料でありスマートフォン等のバッテリーに使用されるなど我々の生活を便利にしてくれる一方で、そのサプライチェーンをたどっていくと写真にあるようなDRCの鉱山での児童労働に行き着く可能性もあるのです。私たち消費者がそうした現実を知ることも大事なことです。

もう一つ触れたいのが人身取引についてです。なぜかといえば児童労働は人身取引と密接な関係にあるからです。世界の人身取引の被害者の約4割は強制労働に従事しており、その被害者の3分の1は子どもで、割合も増加傾向にあります。人身取引はサプライチェーンにおいても深刻な人権侵害として捉えられており、世界の重要な課題として認識されてきています。

今ピンクの毛布が好きな子どもの動画を流していますが、その毛布のサプライチェーンをたどっていくと同じような年齢の少女が児童労働で作っていたという話です。サプライチェーンというのは子どもたちを苦しめるものではなく、このピンクの毛布のように、子どもたちを守るものであるべきだと思います。それが「責任ある」サプライチェーンというときの重要な要素ですし、そのために私たち消費者は責任ある消費をすること、企業は果たすべき責任をきちんと果たすこと、G7を始めとする政府にはきちんとリーダーシップをとって提言書で我々が求めているような具体的な施策をとることを求めたいと思います。

田辺有輝(「環境・持続社会」研究センター(JACSES)プログラムコーディネーター)  

発表パワーポイント(PDF)

JACSESは途上国開発事業における環境や人権についてモニタリングしてきましたが、その観点からサミットでも議論されている「質の高いインフラ投資」の問題点についてお話ししたいと思います。

日本政府の発表している「質の高いインフラ」の要素には、環境社会配慮ガイドライン等の高い国際スタンダードを守ると書かれています。同時に、日本政府は「質の高いインフラ」の事例集を発表していますが、その事例の一つがラオスのナムニアップ水力発電所というプロジェクトです。しかし、メコンウォッチはこの案件は環境社会配慮において深刻な人権侵害があると指摘しています。

次の問題としては、質の高いインフラプロジェクトの技術例として最初に出てくるのが、石炭火力発電です。しかし、いろんな研究がされていますが、石炭火力発電所は高効率であったとしても、パリ協定で合意された「2度目標」に適合しないと指摘されています。 昨日、政府から「質の高いインフラ輸出拡大イニシアチブ」が発表されましたが、今後5年間で2,000億ドルを供給するという量を増やす話と、迅速化する(フィージビリティ・スタディを早くやる)という話が出ています。しかし、体制の強化なしに資金供給量を増やし迅速化することは、プロジェクトの質を逆に低下させるのではないかと懸念しています。

したがって、我々としては3点提言したいと思います。一つは、環境社会基準の適切な実施が重要であること、二点目はパリ協定の目標との整合性を確保すること(石炭火力発電を除外すべき)、それから三点目として無理な資金供給量拡大と迅速化は避けるべきである、ということです。

質疑応答

 Aylin Mandaric (Analyst, Civil Society, G7 Research Group, Toronto University):子どもの問題について質問したいのですが、G7への要求において児童労働・人身取引を特に取り上げている理由を教えてください。

 片山(ワールド・ビジョン・ジャパン):もちろんワールド・ビジョンでは児童労働・人身取引のみについてアドボカシーしているのではなく、子どもの貧困について取組んでいるわけですが、特にこの2つの問題は深刻化しており子どもに対する影響が非常に強いと考えています。以前は貧困全般についての提言をしてきましたが、例えばアフリカでの児童労働は深刻なイシューになってきており、G7において特に取り上げるべきと考えました。

 Aylin Mandaric:今回のG7においては貧困問題全般について何か合意することを期待するよりも、児童労働や人身取引といった子どもの問題について議論してもらうことの方がより容易であると考えたということでしょうか。

 片山(ワールド・ビジョン・ジャパン:私たちは子どもに限らず、G7各国に対して4分野の政策提言をしており、保健、栄養、シリア問題に加えて、サプライチェーンの問題を取り上げています。児童労働や人身取引という限られた出し方よりも、サプライチェーンはより広い分野を含みますので、今回はその中で提言することとしました。

 黒田(CSOネットワーク):昨年のエルマウサミットでは議長国ドイツのリーダーシップによりビジネスと人権問題がアジェンダに入りましたが、私たち複数のNGOはこの昨年の成果を引き継ごうと取り組んできたものです。残念ながらアジェンダに入らなかったという点ではうまくいきませんでしたが、提言を取りまとめました。そこでは子どもの問題だけではなく環境なども含めて包括的に提起しています。

中島隆宏(公益財団法人アジア保健研修所(AHI)主任主事):OECDガイドラインが2011年にセットされたということですが、先日の市民サミットでは南インドのダリットの人々の健康問題について分科会を開催しました。ダリッドの共有地が経済特区に指定された結果、森林伐採が行われ、フランスのミシュランの工場ができました。それをフランスのNGOが提訴したのですが、その際に使われた資料として根拠になったのがOECDのガイドラインでした。裁判では結果的に負けてしまいましたが、環境が破壊され、灌漑が損なわれたことで農業ができなくなり、工場による健康被害も想定されています。森林では薬草として使われていた植物もありましたが、そうした生物資源も失われました。OECDガイドラインが果たしてどこまで有効なのかがよく分からないのですが、強制力というものはないのでしょうか。

 黒田(CSOネットワーク):途上国での開発・投資は地域に住む人々を幸福にするために行われるべきものですが、ご指摘のように人々の犠牲によって成り立っていることが多いのも実態だと思います。OECD多国籍企業行動指針にしても、ビジネスと人権指導原則にしても、いわゆる法的拘束力はないので、その点が非常に問題になっています。毎年ジュネーブで開催されている「国連ビジネスと人権フォーラム」でも、NGOや先住民グループの主張として必ず法的拘束力を求める意見が出ています。実際問題として、英国では現代奴隷法という法律も出ていますので、今後はいわゆるソフトローだけではなくハードローも合わせて必要だという議論が出てきています。他方、先方政府がなかなか合意しないという問題もありますので、今後も引き続き課題となっています。

(了)

 

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