経済産業省「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」 のパブリック・コメントに意見を提出しました。

08.26


CSOネットワークは、2022年8月26日付で経済産業省が意見を公募している「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」 に対し、以下、14項目の意見を提出しました。

「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」および、パブリックコメント募集要項については、こちらのページをご参照ください。

「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」 に対する意見

2022年8月26日

経済産業省大臣官房ビジネス・人権政策調整室

パブリックコメント担当 御中

 

下記14項目にわたり、「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」の原案について意見を述べます。

1. 該当箇所 全体

意見内容

まず、企業の責任あるビジネスの推進、人権尊重の取組の促進に向けた本ガイドライン策定におけるご尽力に感謝申し上げます。しかしながら、本ガイドライン策定におけるプロセスに関する情報の開示が限定的なものであったことについては、これからの取組みの実施において、改善を求めたい。

理由

パブリックコメントに付される前のステークホルダーとのエンゲージメントを充分に実施することは、救済されるべき人権課題等を踏まえたより有効的な取組の実施や、ガイドラインの意義の理解に繋がると考えます。今後、本ガイドライン等の活用を通じ、企業の人権尊重に向けた取組みの促進を期待すると同時に、日本政府としての人権尊重に関する責務を果たすための政策がより一層、強化されることを願います。

2.該当箇所 「1.はじめに」前文の最後の段落

意見内容

「日本政府は、これからも、国家としての義務を積極的に果たしていく。」の部分の記述は、企業に対する取組の記載のみになっているが、国として、国民・市民に対して実施する人権についての教育・啓発、救済の仕組みの構築などの行動についてもあわせて記載するべきではないか。

理由

本ガイドラインは企業を対象にしたものであるが、企業の人権尊重の取組みは、国民・市民に大きく影響を及ぼすことから、人権の保護の責任を担う国家として、国民・市民に対する取組みを記載すべきである。

3. 該当箇所 「1.2 人権尊重の意義」6段落目

意見内容

「既に多くの日本企業は、ESG・SDGsを意識した取組を行うとともに・・」の部分について、「ESG・SDGsを意識」という表現については、その内容及び理解について誤解を招かないようもう少し丁寧に記載していくことが望まれる。

理由

本文中に、ESGは、投資判断の観点から提唱されたものであり、SDGsは、持続可能な社会の実現のための目標であることを明確にしたうえで、「日本企業においては、ESGを重視した企業経営や、SDGsの達成に向けた取組みを行う」との記載が必要である。

4.該当箇所 「1.2 人権尊重の意義」6段落目

意見内容

注にある「ディーセント・ワーク」の説明をもう少し丁寧に記載するべきである。

理由

「ディーセント・ワーク」という言葉をここで初めて知るという人も多く想定されることから、たとえば、以下のILO駐日事務所のURLを付けるなど、丁寧な説明が必要と考える。

https://www.ilo.org/tokyo/about-ilo/decent-work/lang–ja/index.htm

5. 該当箇所 「1.2 人権尊重の意義」全体

意見内容

経営リスクの記載(2~4段落、16行)は多くの分量で具体的な記載になっており、人権リスクの記載(2段落目のみ、4行)は少なく、抽象的な記載になっており、質・量ともにバランスを欠く。人権リスクについて具体的な記載とともに経営リスクについてはもう少しコンパクトな記載が望ましい。

理由

この記載方法では、企業が本ガイドラインに沿った人権尊重の取組を実施するにあたって、人権リスクへの理解が不十分ままま、経営リスクに偏重した理解と取組になることが懸念される。

6.該当箇所 「2.1 取組の概要」

意見内容

図の「ステークホルダーとの対話」の矢印は両側に向いているべきではないか(⇔・・・この形の矢印が適切ではないか)。

理由

ステークホルダー側からの矢印のみでは、ステークホルダーとの対話がステークホルダーからの要請にもとづくもののみであるかのように受け取られかねない。ステークホルダーとの対話は、人権方針の策定、人権DDの実施、救済に当たっても必要となるものである。また2.1.1、2.1.2、2.1,2.3、2.2.3、3.1等との整合性にも関わるものである。

7.該当箇所 「2.2.3 人権尊重の取組にはステークホルダーとの対話が重要である」

意見

「なお、「ステークホルダーは」前記の2.1.2.3のとおり、取引先や労働組合・労働者代表等の様々な主体を含む」の表現について、ここでの重要な点が明確になっていないのではないか。ここでの記載内容は、どのような状態にあるステークホルダーとの対話が重要であるかの観点で記載されるべきである。

理由

ここでより重要なのは、ステークホルダーの属性ではなく、立場を認識することであると考える。例えば、「・・・のとおり、企業の活動により影響を受ける又はその可能性のある利害関係者(個人又は集団)を指し、様々な主体が含まれる。」という表現が適切と考える。

8.該当箇所  「3.1 策定に際しての留意点」

意見内容

2段落目の人権方針の記載について、人権方針が企業の基本的な方針を示すことの記載と、人権方針の策定には全社で取り組むべきであること、さらにどのような体制にするか、各部門がどのような役割を果たしうるかについて、もっと丁寧に説明するべきではないか。

理由

ビジネスと人権に関する取り組みの社内への浸透、責任ある企業行動を企業方針・経営システムに組み込むために、全社でどのような姿勢で取り組むか、各部門はどのような役割を担えるかが重要である。例えば、「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンスガイダンス」(OECD)のP57~59には、デュー・ディリジェンス実施に関連しうる部署や職能の例などが示されているが、このような参考文献を活用し、企業がどのような体制で、どのような形で様々な部門を巻き込んで経営システムに人権デュー・ディリジェンスを組み込むべきなのかを示すことも本ガイドラインで求められるのではないかと考える。

9.  該当箇所 「3.2 策定後の留意点」

意見内容

企業全体に人権方針を定着させ、具体的に実践していくための手段として、方針の周知、公表に加えて、人権に関する教育や研修の実施などについても触れるべきである。

理由

企業における人権を尊重するための取組み促進のための手段、方法については具体的に記載することが、企業が取り組みを進めるうえで参考になると考える。

10. 該当箇所 4.2.1.3「取引停止」

意見内容

「取引停止」のタイトルは内容と照らし合わせると、誤解を招きかねないことから、「取引における是正」が適切と考える。また1段落目が「取引の停止」から記載を始めるのも同様に不適切と考える。

■理由

この項目は、「人権への負の影響が生じている又は生じ得る場合」のサプライヤーへの対処については、順番として負の影響の防止・軽減、そして最後の手段としての取引停止とする必要がある。

11. 該当箇所 「4.4 説明・情報開示」の前文1段落目

意見内容

「説明・情報開示」については、企業の基本的な考え方について記載すべきである。

理由

現在、人権侵害に直面した際の説明責任の記載になっているが、ステークホルダーにとってまず必要なのは、企業の人権尊重への方針・取組、そして、人権への負の影響が発生した場合の方針・取組の記載であると考える。

12. 該当箇所「4.4 説明・情報開示」の前文2段落目

意見内容

「人権尊重の取組について情報を開示していくことは、仮に人権侵害の存在が特定された場合であっても、企業価値を減殺するものではなく、むしろ改善意欲があり透明性の高い企業として企業価値の向上に寄与するものであり、また、ステークホルダーから評価されるべきものでもあり、企業による積極的な取組が期待される。」の部分がわかりにくい。

理由

ガイドラインの読み手がわかりやすいように、たとえば、以下のように文章を区切り、言葉を補うことで意図をより明確にしてはどうか。

「人権尊重の取組について情報を開示していくことは、仮に人権侵害の存在が特定された場合であっても、企業価値を減殺するものではなく、むしろ改善意欲があり透明性の高い企業として企業価値の向上に寄与するものである。企業の取組みの評価は、ステークホルダーによってなされるべきものであり、企業による説明責任を果たすための情報開示への積極的な取組が期待される。」

13. 該当箇所「4.4.1.2負の影響への対処方法」

意見内容

負の影響への対処方法についての説明が「企業の対応が適切であったかどうかを評価するのに十分な情報であるべき」とあるが、「企業の評価」の観点での記載のみでは適切な記載ではないと考える。

理由

ここでの記載はタイトル通り、負の影響を受けた人への対処方法を記載すべきであり、その内容として、負の影響のリスクや影響を受けた人への説明、リスクの軽減、救済方法などの記載が適切と考える。これらの説明は企業が評価されるためのものではない。企業の評価は結果であると考える。「企業の評価」の観点の記載は誤解されないような記載が望ましい。

14.該当箇所 「5.2 国家による救済の仕組み」

意見内容

「具体的には、例えば、司法的手続としては裁判所による裁判が、非司法手続として は、厚生労働省の個別労働紛争解決制度や OECD 多国籍企業行動指針に基づき外務省・ 厚生労働省・経済産業省の三者で構成する連絡窓口(National Contact Point)、法務局 における人権相談及び調査救済手続、外国人技能実習機構における母国語相談等が存在する。」の部分、それぞれの機関の果たしている役割についてもっと説明すべきである。

また、ビジネスと人権に関する指導原則28,31が示しているように、国家による実効的な「非国家主体による」苦情処理へのアクセスの促進についての記載が望まれる。

理由

各機関名を挙げているだけでは、それぞれの具体的な機能を紹介しているとは言えず、企業にとってのガイドとはならない。 外務省・ 厚生労働省・経済産業省の三者で構成する連絡窓口(National Contact Point)について、注にURLのみが記されているが、説明として不親切であると感じる。

本ガイドラインにおける日本における救済の仕組みに関する全体像の記載にあたっては、非国家主体の救済メカニズムにおける課題についても明確に記載し、日本にいわゆる独立した国内人権機関が存在していないことを考慮した国家の役割について言及することが必要であると考える。

以上

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