地域密着中小企業事例10
安全、環境への配慮、地域・従業員との信頼関係を最優先に
前田金属工業株式会社
街中で金属リサイクル業を営む前田金属工業株式会社では、安全、環境への配慮のもと、地域・従業員との信頼関係を最優先に本業に向き合い、地域貢献にも取り組んでいる。持続可能な社会づくりについての思いを代表取締役社長の前田聡一郎氏に伺った。
ヒアリングから見えてきた気づき
地域に密着した中小企業の持続可能性向上に繋がる取り組みのポイント・必要とされるサポート
- 街中という立地条件を生かすために地域のニーズを把握しそれに応えようとしたことで事業に広がりが生まれた。
- 人材の維持・育成のための従業員ファーストの取り組みにより、生産性の向上や安全な操業が実現している。
- 公共調達では、価格のみによる落札ではなく、社会的責任への配慮についての評価も必要である。
- 社会的責任、持続可能性に配慮した経営のメリットを実証的に示すことができれば、取り組みが広がる可能性は高いと考えられる。
SDGsとの連関
安全、環境に配慮し、地域・従業員との信頼関係のもと、本業と地域貢献に取り組む前田金属工業株式会社の取り組みは、SDGsのゴール3、4、8、11、12、17などの達成に貢献する取り組みである。
安全、環境への配慮、地域・従業員との信頼関係を最優先に
前田金属工業株式会社
安全、環境への配慮、地域・従業員との信頼関係を最優先に
前田金属工業株式会社は東京都立川市で、土木工事や解体業者、工場などから出てくる鉄、銅、アルミ、ステンレスなどの金属スクラッブを収集、選別、加工し、鉄鋼メーカーに販売するという金属リサイクル業を営んでいる。金属リサイクル業としては珍しく街中にあるため、地域との信頼関係を築きながら事業を継続し、2019年1月には創業70周年を迎えた。創業当初は周囲には何もなく、土地を買い増しながら事業を拡大してきたが、地域の発展とともに住宅も増え、地域との信頼関係の構築と安全・環境へ配慮した設備への投資が必須となった。地域への公害となる音や埃、振動を抑えるために、工場の壁を防音壁にしたり、天井にミストを設置して粉塵を抑えるなど、地域で事業を継続するために必要な投資は惜しまずやってきた。
現在、代表取締役社長を務める3代目の前田聡一郎氏は、2代目(現在の会長)が65歳の頃に事業を引き継いだ。当初から先代は、自分が元気なうちに事業を継承したいとの意向が強く、後を継いだ前田社長自身も当時35歳前後と若かったが、新しいことにも柔軟な年代での事業継承は良かったと語り、現在も先代と相談をしながら事業を行っている。
従業員10名の多くが多摩地域から通っている。2代目の従業員ファーストの姿勢は前田社長にも引き継がれ、休憩室を設置するなど働く環境への配慮がなされているほか、従業員の休暇取得率も高い。長い人では一度に3週間の休暇を取得したケースもあったという。現在、新卒採用は行っていない。現時点ではこれ以上会社を大きくしようとは思っていないという。
一人ひとりを元気にする「地域の森」を作りたい
2019年4月、医療施設と保育園を兼ね備えた複合施設「メディカル・フォレスト・たちかわ」を自社の隣に開設した。「医療の森」をコンセプトに、地域の一人ひとりが元気になれる場所を作ることを目指している。施設開設の背景には、地域への貢献に加えて、事業の継続が目的にあったという。立川周辺の昨今の住宅需要を鑑みると、建築会社の資材置き場であった工場の隣の土地が売却された場合は集合住宅が建つ可能性が高く、事業の継続が困難になることが予想された。そのため、前田社長は、隣接地の買い取りに踏みきり、それが発端となり、地域に貢献できる事業、住民の方々に地域にあって良かった思ってもらえる場所を作りたいという想いが医療モールというアイデアに結びついた。プロジェクト開始当初は、参加してくれる医療機関がなかなか見つからず苦戦したが、そこで強力なサポートとなったのが、日頃から付き合いのある多摩信用金庫だった。多摩信用金庫からは融資はもちろん、医療機関や医師に関する情報提供などの様々な支援を受けたほか、地域貢献への評価もしてもらったという。前田社長は、数字以外の面も見てくれる多摩信用金庫は地域にとって非常に重要な存在であると語った。
みんなが良い社会を作っていこうという意識が大切
中小企業支援に関しては、「実際に安全や環境に配慮するなど社会的責任に留意した経営に取り組んでいても、実態は分からなくても都合の良い企業に簡単に接触できてしまうとお客さんはそちらの企業のほうに引き寄せられてしまう傾向がある。より高い価格で金属を売りたいお客さんは、買取価格の高い会社に行ってしまい、真面目に社会的責任を果たしている会社には来ないのではないか。この買取価格がなぜ可能なのかという企業が実際に存在する。社会全体が持続可能性に配慮する企業を優遇する形になるべきだと思う。持続可能な取り組みを行なっている企業に対する税制の優遇や認定制度などが必要なのかもしれない。」と、より良い労働環境の整備に取り組む企業を増やすための社会の仕組みづくりが必要であることを訴えた。
公共調達に関しても、「かつて入札を行なっていたことはあるが、今はほとんど行なっていない。入札価格のみで落札される制度では労働環境や安全・環境への対応に問題のある企業はなくならないと思う」と語った。
また、「長く勤める従業員のいる会社、組織の方が、生産性も高く、事故も少ないと思われるため、人材の維持・育成に投資することは、長期的にはコストメリットのあることは理解できるが、そのような調査研究やエビデンス・データがあると取り組もうという企業が増えるのではないか」と具体的な中小企業への支援の在り方について語った。
持続可能な社会づくりについては、「大切なのは教育だと思う。みんなが良い社会を作っていこうという意識が必要であり、その方向性に沿った形の教育が必要だと思う。時間のかかる話ではあると思うが。」と長期的な視野からの取り組みの必要性を語った。
(ヒアリング実施日:2019年10月8日)
企業情報
会社名 | 前田金属工業株式会社 |
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会社設立日 | 昭和26年1月 |
代表取締役 | 前田 聡一郎 |
本社所在地 | 東京都立川市柴崎町6-19-28 |
資本金 | 4,350万円 |
事業内容 | ・産業廃棄物の処理と収集運搬 ・産業廃棄物の再生事業 ・非鉄金属・製鋼原料の売買 ・台貫計量及び計量証明事業 ・上記に附帯する一切の業務 |
従業員数 | 10名 |