CSOネットワーク 提言&コラム

「SDGsと人権~中小企業と地域社会の持続可能性向上に求められる視点とは~」(後半)

投稿日:2021/03/19
カテゴリー: コラム

CSOネットワークでは、企業の責任あるビジネスの推進とサステナブルな社会の形成に貢献することを目的に、これまで様々な事業に取り組んできました。また、SDGs(持続可能な開発目標)については、「誰一人取り残さない」というその理念や、「公正性」「持続可能性」「多様性」「包摂性」といったその原則を大切にする形での普及や取り組みを進めてきました。

前半に続き、CSOネットワークが考える、一人一人が尊重される公正で持続可能な社会の実現のために欠かせない視点について、SDGsと人権をテーマにご紹介します。

(本稿の前半はこちらのページをご覧ください)

 

三.中小企業に求められる人権への取り組みとは

1.働き方の多様化への対応

中小企業の深刻な人材不足の解決は喫緊の課題である。一方で、共働きの増加や定年の延長などにより、女性、高齢者を中心に、働きたい人の数は減っていないとも言われている(注1)。従来、業種や職種によっては対象とされ難かった女性の働き手や、定年後も働く意欲のある高齢者、あるいは外国人労働者に対して、広く雇用の門戸を開くことは、中小企業の人材不足の解決に資するものと考えられる。同時に、働き方の多様化を保障し、これらの人々の雇用を定着させていくことも重要である。女性や高齢者、外国人などそれぞれの事情や特性に応じた適切な労働条件や働きやすい環境を整えるべく、家事や育児と両立できる柔軟な働き方や、体力に自信のない高齢者に配慮した勤務体系、あるいは外国人に対するコミュニケーション面でのサポート等の提示が必要となってくるだろう。

一方で、「人材不足」への対応から、働く人を「労働力」とのみ見てしまうことには注意が必要である。人々の異なる背景を受け入れ、境界を設けず、「人」として対応することが人権尊重には欠かせない。多様な人々と共に働くことによって、気づかなかったことに気づき、社会をより豊かで多彩なものに変えていくきっかけとしたいものである。

2.SDGsの積極的導入と人権リスクへの対応

中小企業が人材不足に柔軟に対応することは、SDGs(持続可能な開発目標)や人権への取り組みに踏み出すきっかけとなるが、それだけでは、中小企業に求められている持続可能な社会への期待に応えることはむずかしい。一つの方法として、自社の商品・サービスのプロセスを振り返り、取り組むべき目標を見出して対応する必要があるのではないだろうか。

取り組みにあたって、第一に、SDGsの目標の背景にある様々な人権の問題を発見し、対応することが必要である。その際には、SDGsや人権リスクに関心と知見のあるNPO・NGOからの情報収集や問題提起の活用、さらには影響を受けるステークホルダーとの対話や協働が有効であろう。第二に、人権リスクを特定し、それらの回避・削減においては、関連する法規やガイドラインを収集して対応する必要がある。関連法規やガイドラインを考慮することで、人権リスクを減らすことになるからである。たとえば、雇用に関する主な法律には、平成19年に改正された雇用対策法、外国人に関しては、労働施策総合推進法に基づく外国人指針、女性については、昭和61年施行の男女雇用機会均等法、平成11年施行の男女共同参画社会基本法、平成28年施行の女性活躍推進法などがある。その他、環境などの法的規制もある。また法律だけではなく、SDGsの進め方を指南する「SDG Compass―SDGs企業の行動指針」(注2)や「ビジネスと人権に関する指導原則」(注3)などの国際合意も参考になる。

四.求められる中小企業への支援・ステークホルダーとの協働 

中小企業でのSDGsや人権の取り組みは発展途上にあるが、今後、中小企業に広く進展・深化させるためには、人材、情報、時間が不足しがちな中小企業に対し、様々なアクターによる支援が必要となる。全国の自治体では、SDGsに取り組む県内企業を支援する動きも広がっている。2020年、内閣府では、SDGsに貢献し地方創生に生かす取り組みを行っている民間企業を支援するためのガイドライン(「地方創生SDGs登録・認証制度等ガイドライン」)を取りまとめ公表している。(注4)今後、全国の自治体において、中小企業を支援する動きがさらに広がることが期待される。

1.政府・自治体による公共調達を通じた支援

多様な働き方への配慮については、国や自治体によって、様々な側面から中小企業に対する支援がなされている。政府の公共調達における受注競争に際しても、女性活躍推進に積極的な企業が有利になる仕組みが、国レベルでは義務化され、自治体レベルでも努力義務とされている(注5)。また、高齢者雇用や保護観察者対象者等を雇用している企業を、調達の際に優先している自治体もある(注6)。最近では、東京都の「女性活躍モデル工事」のような、人材不足が特に深刻な建設業界に、新たな労働力を呼び込むことを目的とした、女性の技術者の配置を要件とした公共工事の入札なども行われている(注7)。公共調達全体の経済規模は市場の15%前後であり、上記のような多様な働き方に関する要件の評価割合は小さいとはいうものの、行政により雇用の在り方や職場環境の方向性が示されることの地域社会に与える影響は少なくないと思われる。公共調達は、2020年10月に公表された日本の「ビジネスと人権」に関する国別行動計画(2020-2025)においても、人権を保護する国家の義務に関する取り組みの最初の柱とされている。(注8)

2.中小企業と多様なアクターとの連携

中小企業と自治体や住民、市民社会組織を含む地域との連携による、地域の持続的な発展を目指すものとして、中小企業基本条例が全国に広がっている(注9)。これらの条例は、中小企業が、地域の経済、社会、文化を支える重要なアクターであることを明示し、地域の様々なステークホルダーによるエコシステムの中で、中小企業を育成、支援し、中小企業と協働して、持続可能な地域社会を築いていくことを目的とするものである。これはSDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」、さらなる下位目標「さまざまなパートナーシップの経験や資源戦略を基にした、効果的な公的、官民、市民社会のパートナーシップを奨励・推進」にも沿うものであろう。具体的な事例として、自治体、企業、NPO・NGO、労働組合、メディアなど多様なアクターがともに地域の課題をテーマに意見交換を行い、問題解決を図る「地域円卓会議」が注目される。茨城NPOセンター・コモンズ(注10)では、2020年に「外国人従業員や家族も安心できる地域に」をテーマにこの「地域円卓会議」実施している。他にも「沖縄未来ファンド」(注11)などの地域円卓会議の例もある。

EUおよび英国では、「Think Small First」(中小企業優先)を経済政策の基本理念として、中小企業政策と地域開発政策を一体的に展開(注12)しており、様々なアクターとの協働による持続可能な地域づくりが世界的な動きになっている。

3.地域における取組の共有

中小企業は、日々、現実の課題に直面する中で、人権や持続可能性について、試行錯誤を繰り返していることと思われる。中小企業による人権や持続可能性に関する取り組みを地域あるいは日本全体の流れとするためには、それぞれの実践事例を地域や全国レベルで共有していくことが必要となる。現在、様々な地域で、官民連携によってSDGsの取り組みを広げようとする官民連携円卓フォーラムが発足しているほか、SDGs市民社会プラットフォームなど、地域を超えた取り組みも広がっている。

新型コロナウィルスを取り巻く状況は未だ予断を許さない状況ではあるが、この機会を捉えて、持続可能な世界を作っていくことが求められている。中小企業がそれぞれの強みを活かし、様々なステークホルダーとともに、地域の課題、自社の課題に向き合うことを通じて、誰もが大切にされる持続可能な社会が実現されるよう、CSOネットワークも様々な側面から応援していきたいと考えている。

一般財団法人CSOネットワーク

古谷由紀子・長谷川雅子・梁井裕子

(注)

1 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「2030年までの労働力人口・労働投入量の予測」(2018)

https://www.murc.jp/report/economy/analysis/research/report_180312/

2 wbcsd「SDG Compass-SDGsの企業行動指針」

https://sdgcompass.org/wp-content/uploads/2016/04/SDG_Compass_Japanese.pdf

3「ビジネスと人権」

https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_001608.html

4地方公共団体のための「地方創生SDGs登録・認証制度等ガイドライン」

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kankyo/kaigi/sdgs_kinyu2.html

5 男女共同参画局「女性の活躍加速のためのワーク・ライフ・バランス等を推進する企業を公共調達等において評価する取組について」(2016)   http://www.gender.go.jp/policy/positive_act/pdf/wlb_torikumi01.pdf

6 一般財団法人CSOネットワーク『公共調達・公契約条例と地域の持続可能性に関する全国自治体アンケート調査結果』(2018) https://www.csonj.org/infoarchive/publication/reportbook002

7 東京都建設局総務部技術管理課建設局「女性活躍モデル工事試行実施要領」(2019)

https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/content/000043985.pdf

8ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)

https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_001608.html

9岡田知弘『公共サービスの産業化と地方自治』自治体研究社(2019)によると、2019年5月時点で、408市区町村、45都道府県が制定済み。

10http://www.npocommons.org/topics/entaku2020.html

11https://miraifund.org/l_roundtalbes/

12藤野洋『欧州における地域活性化のための中小企業政策』(2016)

https://www.shokosoken.or.jp/chousa/youshi/27nen/27-4.pdf

参考文献

・外務省『我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ』

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf

・外務省「ビジネスと人権」https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_001608.html

・一般財団法人CSOネットワークWebサイトhttps://www.csonj.org/

 

本稿は、法律のひろば73巻4号(2020年4月号)「SDGs推進と人権尊重~中小企業の取組を中心に」(著:一般財団法人CSOネットワーク 古谷由紀子・長谷川雅子・梁井裕子)をもとにし、加筆(修正)したものです。

最新記事

カテゴリー

月別アーカイブ

ページ上部へ戻る