CSOネットワーク 提言&コラム

インタビューシリーズ「CSONJな人たち」Vol.4 千葉 直紀

投稿日:2021/07/15
カテゴリー: CSONJな人たち

CSOネットワーク(CSONJ)を取り巻く人たちをご紹介するインタビューシリーズ「CSONJな人たち」第4弾は、評価事業コーディネーター 千葉直紀です。担当事業や日々向き合っている課題について語ってもらいました!

――千葉さんが取り組まれている「社会的インパクト評価」について教えてください。
「社会的インパクト評価」とは、多元的な価値を可視化し、価値判断を行うものです。今まで、「お金」という、わかりやすい画一的な価値観があったと思うのですが、企業の社会貢献活動、地域の活動、自治体のサービス、NPO、それぞれの主体がお金では測れない価値を生み出しています。評価という手法を通して、お金という単一的なものさしでなく、多元的な価値、「みんなが大切だと思っているけど、上手く言語化されていないもの」、「目に見えないけど大事なもの」を見える化して、「それが誰にとって、どのくらい大事なのか」の価値判断をおこなうのが「社会的インパクト評価」であると考えています。

――短期的ではなく長期的な視点が大切だと聞いたことがあるのですが。
短期、長期いずれも大事だと思います。長期的に生み出す価値を見据えつつも、その長期の時間軸を見据えた上で、短期的な時間軸で生まれる価値をとらえていくことも重要です。また、定量だけでなく定性、つまり数字で表されない、例えば、話した言葉、場の雰囲気、笑顔なども価値として捉えることがあります。さらに、プラスだけでなくマイナスの価値も同様に捉えるということもポイントです。良い部分は伸ばし、ネガティブな部分は減らしていく必要があります。「社会的インパクト評価」では、こうしたたくさんのことを同時に扱い、考え続けていく、関係者にとっての納得解を見出してくという難しさがあります。

――昨年、CSOネットワークの活動であったインパクト・マネジメント・ラボ(Impact Management Lab.:IML)を一般社団法人化しました。千葉さんは、現在もCSOネットワークの評価事業コーディネーターですが、別法人化したIMLの共同代表も務めています。CSOネットワークからIMLをスピンアウトすることになった背景と現在の活動を教えていただけますか。
まず、IMLの誕生の経緯なのですが、2018年にSIMI(社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ)プラットフォーム組織で社会的インパクト・マネジメント(社会的インパクト評価を含む)のHow(手法)をまとめたガイドラインを発行しました。このガイドラインをより社会に普及するために研修事業を実施することになり、その過程でCSOネットワーク内の評価事業の中にIMLを立ち上げました。きっかけとなった研修事業を進めていくにつれ、CSOネットワークとは別の法人として独立的に活動した方が良いとの判断があり、2020年7月に一般社団法人として新たなスタートを切ることになりました。

研修の様子

現在、IMLでは「社会的インパクト・マネジメント」や「社会的インパクト評価」を推進しています。「社会的インパクト・マネジメント」というのは、これまで述べた「社会的インパクト評価」の手法を使いながら、より良い意思決定をするマネジメントにつなげ、事業を行う主体の力を高めていく、ひいては社会的インパクトを高めていくという考え方です。日本ではまだ社会的インパクト評価・マネジメントの使い手、つまり、目に見えづらいが大切な価値を捉えられる人、指南や支援、ナビゲーションができる人が少ないため、IMLでは仲間作りや人材育成に力を入れて取り組んでいます。研修や共同の調査研究、個別の支援などを行い、社会的インパクト評価・マネジメントの実践者を増やし、実践者のコミュニティを作っていくことを意識しています。

――社会的インパクト評価・マネジメントが広がっている実感はありますか。
あります。ひとつの要因として、社会におけるSDGsの認知やSDGsの達成に向けた取り組みの広がりが挙げられると思います。SDGsの浸透に伴い、企業は「どのように自分たちの社会性を測り、貢献度を示すことができるか」という課題に直面しています。加えて、昨今のESG(環境・社会・ガバナンス)投資の高まりも後押しになっていると思います。また、投資家だけでなく、国や自治体も企業の社会性に注目していますし、ソーシャルセクターからも休眠預金等の動きがきっかけとなり関心が高まっていると思います。

――千葉さんがCSOネットワークに関わるようになったきっかけを教えてください。
2017年に知人を経由し、紹介をしてもらったのがきっかけです。当時、私は医療の分野で仲間とともに非営利団体を立ち上げ、事業を進めながらもその後の方向性を模索していました。
そこでの経験が現在の活動につながっていると感じるのは、当時、伴走支援を受けたことかもしれません。事業者として事業活動を行っていると不安や孤独を感じることがあり、そんなときに悩みを受け止め力になってくれたのが伴走支援だったんです。自分が事業を行うのではなく、伴走し、支えるという方法もあるということを知り、伴走支援という関わり方に興味が湧きました。

――事業を行う立場から、支える立場へとシフトされたのですね。
そうですね。この二つの立場は、人によって向き不向きがあると思います。私はどちらもやってみて、自分の性質が分かった気がしています。今の立ち位置の方が自分自身はしっくり来ていると思っています。CSOネットワークとの出会いがきっかけとなり、あらためて自身のことも知ることができ、良かったなと思っています。

米国評価学会の元会長 マイケル・パットン博士と

――評価事業に取り組まれている中での問題意識を教えてください。
「価値」の捉え方が難しいと思っています。私も勉強中ですが、価値の捉え方はまだまだ発展途上です。例えば、こども食堂について考えると、運営者が大切にしていることや、こども、地域の人、保護者が感じている本当の気持ちをどうしたら価値として正しく捉えられるだろう、など悩みながら仕事をしています。画一的な手法を使って価値を捉えようとすると、本質が捉えられません。スタンダードはありますが、価値の引き出し方には工夫が必要ですし、標準化されないものであると思っています。
一方で、「社会的インパクト評価」を普及し、多元的な価値を色々な場で捉えられるようにするには、手法を画一化、標準化する必要も生じます。多様な価値をどのように標準的な方法で捉えるか、これは世の中的にもまだ答えが見つかっていないと思います。個別な事業・プロジェクトの評価だけでなく、より大きなスケール、つまり、地域単位、グローバルレベルも同様で、価値の創出・課題解決には相当な工夫をしないと立ち向かえないのだろうと思います。

――評価事業を通じて、伝えたいことを教えてください。
「社会的インパクト評価」というのは、標準化、マニュアル化できるものでなく、現場での創意工夫が必要です。評価自体が目的でなく、評価の中で得られたデータを、社会的価値をより高めるために事業の運営、経営に活かしていかなければなりません。マネジメントに答えはないと考えており、現場での創意工夫を促すようにしています。評価の手法を一部の専門家の専売特許にしてはなりませんし、社会的インパクト評価・マネジメントの本質を押さえてもらった上で、事業者に現場で活用・応用してもらえるよう意識しています。

――今後の千葉さんの目標を教えてください。
CSOネットワークとして目指していることでもありますが、セクターを超えた共通言語を作っていきたいと思っています。社会的な価値やインパクトもそのひとつと考えられると思います。企業、NPO・NGO、自治体、市民など異なるセクターが共通の言語で対話するための橋渡しができるよう今後も貢献していきたいと思っています。

聞き手所感:
事業を行う立場から支える立場へ、様々な関わり方があるということを教えていただきました。千葉さんが生み出すインパクトに今後も注目です。

次回もお楽しみに!

聞き手:CSOネットワーク プログラムアソシエイト 山本真穂

 

プロフィール:


千葉 直紀(ちば なおき)
CSOネットワーク 評価事業コーディネーター
一般社団法人インパクト・マネジメント・ラボ 共同代表
株式会社ブルー・マーブル・ジャパン 代表取締役

プログラム評価、発展的評価、社会的インパクト・マネジメント、組織診断等を通した社会的事業の開発・改善、組織のマネジメント支援を専門としている。これまで社会的事業の起業・実施経験あり。支援者としてはNPO/NGO、民間企業、行政の評価・マネジメント支援や人材育成、同分野に関する国内外の調査を広く行ってきている。
CSOネットワークでは発展的評価の日本への導入研修事業(伴走評価エキスパート育成プログラム)や社会的インパクト・マネジメント研修開発を担当。
社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ事務局、日本民間公益活動連携機構(JANPIA)評価アドバイザー、GSG-IMM(インパクト測定・マネジメント)ワーキンググループ・メンバー、アメリカ評価学会メンバー。中小企業診断士(経済産業大臣登録)、認定ファンドレイザー(日本ファンドレイジング協会)。

講師派遣についてはこちらをご参照ください。

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