皆さん、こんにちは。サステナビリティコミュニケーターの梁井です。今回の『ケースから考える「ビジネスと人権」ライブラリー』では、『職場におけるウェルビーイング』をテーマにとりあげます。
いま、人材をコストでなく資本と考え、企業価値の向上につなげる「人的資本経営」(*1)を官民一体となって推し進める動きが活発化しています。2020年9月に「人材版伊藤レポート」が公表されて以降、人材に関する注目度が高まる中で、日本企業においても人的資本に関する課題が認識され始めました。2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいても、人的資本に関する記載が盛り込まれています。この「人的資本経営」の推進に向けては、従業員のウェルビーイングを高めることが非常に重要です。ウェルビ-イングとは、健康で幸福な状態を意味する言葉ですが、健康で幸福な状態とは、すなわち、人権が守られている状態でもあると思います。ILOでは「職場におけるウェルビーイング」を、物理的な労働環境の質と安全性から、労働者が自身の仕事、労働環境、職場の雰囲気、組織についてどのように感じているかまで、労働生活のあらゆる側面を含むと説明しており、労働者の幸福は、組織の長期的な有効性を決定する重要な要素であるとしています(*2)。
このほど、日本政府より公表された「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(*3)では、あらためて人権の保護・実現は国家の義務であることが示されると同時に、企業は人権尊重する責任があり、人権尊重の取組みにはステークホルダーとの対話が欠かせないことなどが記載されています。ステークホルダーとは、企業の活動により影響を受ける又はその可能性のある利害関係者(個人又は集団)を指し、その範囲は幅広いものですが、なかでも従業員は正と負の双方の観点で直接的に影響を受けるという観点で重要なステークホルダーとなります。従業員と対話し、職場のウェルビーイングを高めていくには、「ビジネスと人権に関する指導原則」が求める人権デュー・ディリジェンスの実施を通じ、従業員がおかれた状況の把握や、救済の仕組みの整備など、「ビジネスと人権」に関する取組みも深化させていく必要があります。人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」の基盤、人権尊重への取組みの強化がいま、全ての企業に求められています。
『ケースから考える「ビジネスと人権」ライブラリー』、次回もお楽しみに。
(参考)
*1:人的資本経営~人材の価値を最大限に引き出す~(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html
*2:Workplace well-being(ILO)
*3:責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン(経済産業省、ビジネスと人権に関する行動計画の実施にかかる関係府省庁施策推進・連絡会議)
https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913003/20220913003.html
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