CSOネットワーク 提言&コラム

性加害事件における企業の対応の遅れは「ライツホルダー」の視点の欠如

投稿日:2023/10/02

代表理事の古谷です。今回は、『性加害事件における企業の対応の遅れは「ライツホルダー」の視点の欠如』をテーマに取り上げます。

現在の社会において、リスクマネジメントを実施していない企業はほとんど存在しない。しかし、リスクの内容については、経営への影響度や発生可能性をもとに取組んできた。つまり経営リスクの視点で対処してきたといってよい。

現在大きな社会問題になっているJ事務所の性加害事件を例にとれば、この問題は1960年代には噂が存在し、1988年にはタレントによる性加害を告発する出版物が発行され、2004年には最高裁で事実が確定されている。しかし、テレビ局も広告主企業もそれらを問題視することはほとんどなかったことから、国民はその事実を知る機会がなく、結局大きな社会問題となることはなかった。J事務所にとっては、性加害問題は経営リスクにはならなかったことになる。このようにリスクを「経営リスク」で捉えることから人権侵害が拡大し、被害者の救済がなされてこなかったことになる。

人権侵害の問題が起きたとき、それを「経営リスク」として捉えるか、「ライツホルダーリスク」と捉えるかによって企業の対応は異なってくる。もし企業が人権侵害をライツホルダーリスクの視点で捉えていたならば、もっと早い段階でこの問題に取り組むことが可能となり、被害者の救済も進み、企業価値も毀損しなかったといえるだろう。

企業の人権尊重の責任は、企業活動における人権の侵害リスクの影響の防止・軽減・救済が目的とされており、「ライツホルダー」つまり権利を持つ人の視点で取組むことが求められることに注意が必要である。2022年には「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が策定・公表され、多くの企業において、ビジネスにおける人権尊重の重要性が急速に認識され、その取組も進展し始めているが、現在、企業が「ライツホルダーリスク」よりも「経営リスク」を重視している懸念も拭いきれない。リスクマネジメントの視点を誤ると、気づいたときには大きな社会問題となり、企業の存続をも危うくすることになることから、企業はこの事件を他山の石として「ライツホルダー」視点での人権尊重責任を果たすことを期待したい。

なお、以下に企業の人権尊重責任に関わる参考情報を記載する。

参考情報

  • ビジネスにおける人権侵害、そして人権尊重の要請は長い歴史と苦難の道があるが、2011 年には、拡大する企業の活動における人権侵害についての国際的な議論がより活発になる中で、「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために」が国連人権理事会において全会一致で支持された。
  • 日本政府は、国連指導原則を踏まえ、2020 年に「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」を策定・公表し、2022年には、国際スタンダードを踏まえた企業による人権尊重の取組をさらに促進すべく、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定・公表するに至った。

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