「オブシーンな世界」を乗り越える?〜持続可能な開発目標と市民社会

10.05


 前回のブログで、ニューヨークの国連ビル周辺はお祝いムードに包まれていると書いた。確かに、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、SDGs)」が加盟国に限らずNGOや民間セクターや研究機関を巻き込んで採択されたことは、「お祝い」に値するできごとといえる。
 とはいえ、ニューヨークのあるサイドイベントでNGOの発言者が「ハネムーン期間はなしね」と言ったように、交渉に関わった市民社会(*1)は採択を一つの通過点としてみており、早速ギアチェンジをしてSDGsの履行をいかに市民社会が監視すべきかという議論に移っている。その背景には、世界の現実は市民社会が望む方向に進んでいないという焦燥感がある。

 

オブシーンな世界

 ここ10年もさかのぼればよいだろうか。グローバルな領域で活躍する市民社会組織の中心的な感情は「怒り」である。公正な社会を願い、それを要請しているのに国際社会がそれに明解に答えないという「怒り」。しかもそれは、理性的に「正しくない」という判断して出てくる感情としての怒りや理解に苦しんで自然に「腹が立つ」といった反応を容易に通り越している「怒り」である。
 これを表す英単語がひとつある。オブシーン(obscene) という形容詞だ。2008年のいわゆるリーマンショック、世界金融危機の後始末以来、いまの世界を形容することばとして見聞きするようになった。もともとの意味は「卑猥な・猥雑な」で、何かを見聞きしたときに「わっ」と拒絶反応を引き起こすような事象のことを指す。なので、辞書を見 ると二番目ぐらいの語義として「胸が悪くなる」などの訳語が見られる。
 すなわち、この単語は、そもそも理解しようとすることを拒否せざるを得ないような状況が存在していることを指し示している。そしてそのような状況が当たり前のように、なかば大手を振って存在している世界が現代社会だという認識を、私たちグローバルな領域で活動する多くの市民社会組織は持っている。

 

極端な格差社会

 日本でも、昨年末から今年始めのピケティ・ブームに見られるように、格差に関する関心が高まっている。今年1月の世界経済フォーラム(いわゆるダボス会議)に向けて、国際NGOオックスファムが発表したレポートによれば、現在、世界の大金持ち80人の富の合計は、世界を金持ちと貧乏人に半分ずつに分けた貧乏人35億人の資産を上回っているという。さらっと書いてしまったが、考えてみればすごい比較である。80 対 3500000000。「4375万人分の富が1人に集中している」 x 80 = 今の世の中。これを「オブシーン」と呼ばずしてどう形容すればよいのだろうか。

 

格差・不平等とSDGs

 こういった現状に対して、SDGsはなにができるのだろうか。格差・不平等のテーマは、 SDGsにしっかりと組み込まれるように、市民社会が積極的なインプットを行い、ロビー活動を展開した項目のひとつである。その甲斐もあって、17の目標のうちの目標10において、「各国内及び各国間の不平等を是正する」が謳われている。それぞれの目標のひとつ下のレベルのターゲットには、
・2030年までに、各国の所得下位40%の所得成長率について、国内平均を上回る数値を漸進的に達成し、持続させる。(10.1)
・2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、すべての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。(10.2)
・税制、賃金、社会保障政策をはじめとする政策を導入し、平等の拡大を漸進的に達成する。(10.4)
・世界金融市場と金融機関に対する規制とモニタリングを改善し、こうした規制の実施を強化する。 (10.5)
などが並んでいる(以上、外務省仮訳より)。
 どうだろうか。日本政府が国内外で進めるべき課題が列挙されているといえないだろうか。しかし「不平等を是正する」ことがSDGsの履行によって進むのか、これまでの国際社会の取り決めに対する各国政府の姿勢を見ても、疑問を呈する声は多い。だからこそ、実施体制の確保とモニタリングの役割が大きいのだ。

 「誰も取り残さない」社会、そして「改革」でなく大きな「変革」。先進国においては、国際的な貢献を今後どう展開するかの羅針盤となるにとどまらず、国内における取り組みを加速されるために活用できるSDGs。
 お祝いはほどほどにしておこう。正念場はこれからである。

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9/28、持続可能な開発サミット終了後に開かれた市民社会の会合。500人以上が登録したが、会場の大きさで集まれたのは200人強。SDGs履行のためのモニタリングのネットワークづくりのための議論を繰り広げた。

*1:ここでは、「市民社会」ということばを、国連等の国際社会で用いられる civil society やCSO(Civil Society Organizations、市民社会組織)を表す用語として使っている。NGO(Non-Governmental Organizations、非政府組織)という用語が、比較的組織として確立され、特に途上国においては社会のエリート層を雇用する一部のCSOを含意する場合が多いのに対し、より多種多様な市民社会の組織体を表す用語としてCSOが用いられる。

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