第1部
(1)マイケル・パットン氏 基調講演(ビデオ)
「イノベーター支援の評価としての発展的評価(DE)」
*以下はプレゼン資料『DEシンポジウム_1Patton_lecture.pdf』に沿って発表された。
- DEとソーシャルイノベーションについて
- 「伝統的な評価」とその限界について
→評価方法の主流としての、形成的評価と総括的評価(「伝統的な評価」)。
→しかし、「プロジェクト」を対象としない評価をするにあたり、評価は新たな課題に直面しており、評価そのものの革新が求められている。
→社会がよりイノベーションに興味関心を持つようになるということは、評価としてもイノベーションを評価できるようになる必要がある、ということ。
→このような文脈からDEが誕生した。 - DEの必要性について
→「大きな変革をもたらすためのイノベーティブな取り組みを評価する」必要性。
→DEの定義や特徴をプレゼン資料に沿って解説。
→DEの特徴についてはスライド9及び10を参照。
→DEは複雑系理論がベースとなっている。
→DEには「正解」や「ベスト・プラクティス」そして、「レシピ」は存在しない。対象の置かれている状況や環境によって必要となる観点やアプローチは違ってくる。
→一つひとつの内容について、どのように接するべきか、評価者としての腕の見せ所。
→DEには、1) イノベーションを支援する評価、2) 評価の厳格さを兼ね備える、3) 実用重視、4) イノベーターに革新を気づかせること、5) 複雑系の考え方、6) システム思考、7) 共創、8) タイムリーなフィードバック、の8つの原則がある。一つ一つの内容について、どのように接するべきか、評価者としての腕の見せ所。 - SDGsとDEとの関係
→SDGsでは、従来の取り組みでは解決できない課題に関し、各国、そして国と国とのパートナーシップにおいて、イノベーティブなアプローチで取り組むことが求められている。
→各分野を個別に取り組むのではなく、分野横断的なアプローチが必要。そのためには各課題を包括したシステム論的アプローチ・視点が大切
→そのようなシステム論的アプローチ・視点及び、「複雑」な状況において、DEが活きる。
(2)マイケル・パットン氏 質疑応答(ライブ)(抜粋)
進行 今田克司(CSOネットワーク代表理事)
Q: 評価の手法について。DEでは、定量的・定性的な内容をどう組み合わせるのか?
A: 定性的・定量的な手法の組み合わせが一般的になっているが、DEにおいてもこれは大切。異なった観点から物事を見ることができるようになる。関連で、DEにおける評価の厳格さについても言及しておきたい。DEにおいては、考え方の厳格さを重要視する。どういう質問を投げかけてゆくか、というところに厳格さがあり、分析手法の厳格さを優先的に求める姿勢とは異なる。
Q: DEの8つの原則について。複雑性やシステム思考など、DEをする人に求められること・スキルが多いように感じている。DEは1人でやるのか、複数でやるのか、どういう形でやるのが良いのか?
A: DE8原則は、DEがポピュラーになり、いろんな評価がDEと呼ばれるようになるなかで、DEにとっての中核的で欠かせない要素を抽出したもの。この8つの原則を全て1人でカバーすることは難しい。DEをチームで取り組むことはよく行われている。この評価はやらなければならないことが多くスピード感をもってやらなければならないので、1人ですべてを行う事はむずかしい。評価者のスキルとして求められるのは、柔軟性を持つ、耳を傾ける、関係性を築いてゆく、自分自身で考えて何かが創発した時に適応を考えてゆくことなど。
Q: SDGs をDE的文脈で捉える必要性は?
A: SDGsについて考える際、個々の目標ではなく、それらをグローバルシステムのなかに位置づけ、目標それぞれの相関関係を考えることが大切。例えば気候変動に対応するためにも、複数の視点で取り組み、グローバルシステムをどう変革するか、という発想が必要。
Q: SDGs関連で、援助機関などでDEを取り入れているようなところはあるのか?
A: 援助機関ではないが、SDGsに関連する取り組みでは、例えば、グローバルな農業と食料の将来について取り組んでいるアライアンス、Global Alliance for the Future of Food がある。北米を中心に25の財団が参画している。関係する団体ともパートナーとなり、農業と食にまつわる様々な課題に取り組んでいる。
Q:DEの原則は理解したが、実際の評価の実施のやり方が良くわからない。通常の評価では、プロジェクトの目的・計画があって、従来の評価をして、その結果、内容を修正して新たに取り組もう、という流れとなる。そのサイクルを短期間でどんどん回すのと、DEとは何が違うのか?
A: DEの支援・評価対象を見ると、イノベーションの質、イノベーションを起こそうとしている人によって、基準も目的も変わる可能性がある。だからこそ、従来の評価とは違う。固定した目的や決められたロジックで評価すればよい、というものとは異なる。例えば、さきほどのGlobal Allianceの例では、世の中の変化、他の組織が何をやっているかにあわせて自分たちを作り変える、適応型・創発型の取り組みを行っている。ソーシャルイノベータ―と一緒に仕事をする、ということは変革をもたらそうとしている人々にあわせて評価をする側も変化しなければならない、ということだ。
第2部
(1)特別講演(ケイト・マッケグ氏)
「DEの特徴と、ニュージーランド におけるDEの事例」
*以下はプレゼン資料『DEシンポジウム_2McKegg_lecture』に沿って発表された。
マッケグ氏の自己紹介
マッケグ氏は、1800年代にニュージーランドに移住したスコットランド系アイルランド系の移民の家族の一員。このように会議の前で自分の祖先についてまず紹介することが、ニュージーランドでは大切にされている。
- 過去20年間評価の実践者として働いていると同時に評価について学びながら教鞭もとっているが、この10年間は特に、ソーシャルイノベーターや社会起業家たちが、ホームレス支援、教育、学業不振、水資源の配分、文化の再興、という難しい社会問題に取り組むことを評価者としてサポートしてきた。その過程で、戦略づくりやキャンペーンの立ち上げ、組織の発足などを一緒に行い、大きな変化をもたらすことをサポートしてきた。またDEについての著書もある。
2つのDEの事例について
- 一つ目の事例は、ニュージーランドの先住民族であるマオリや太平洋島嶼国系の子どもたちの体系的及び長期的な学業不振の課題についての取り組み。教育体制の中において長らく、このような民族の文化的な固有性が認められていない状況がある。オークランドのニュージーランド財団のほうで、5年間にわたる2000万ドル(NZドル)の予算が配分され、この課題に取り組むこととなった。幼少期から高等教育に至るまでに関わる取り組みで、マオリのコミュニティの中で行った。このような規模での取り組みは初めて。伝統的や文化的な原則や実践を使うことで、現代の世界の中で学業不振の問題に取り組んでいる。私は評価者として、プログラムの設立と発展の中にも関わってきた。具体的には、プログラムからの学び・振り返り・現状の解釈・評価者的な考え方の導入等を通じてプログラムの発展を手助けした。
- 二つ目の事例はニュージーランド政府による、より多くのマオリの人がスポーツに取り組むことを目的としたプログラム。文化やスポーツを対象としていることが、とても新しい取り組み。12のマオリのコミュニティの中でマオリの人たちがアイデンティティや文化を自ら認めながら、文化再興の枠組みを作成した。また文化に特化した信頼性の高いデータを収集する枠組みも導入し、4年間継続した。
2つの事例の共通点
複雑な状況下に実施され、取り組みとしての前例がなく、長期的に社会に根付いた課題に対し既存のやり方がうまくいかなかった中、イノベーションが試行されていたことが2つの事例の共通点としてあげられる。
- このような状況における評価プロセスは、
→俊敏に行われ、あらゆるコンテクストに対応できるようにした。
→学びと意思決定を現場でも資金的強者間でも可能にした。
→原則(principles)をガイドラインにした。関係する人々にとって、何に価値があるか、何が重要なのかを事業の原則として抽出。この過程が非常に重要。 - DEの質問の枠組みもあり、色々異なる状況にも適用できて状況に応じて使える。例えば、何が今創発していて、何に対してどうしていくのか、という質問。これがDEの実践のなかで非常に重要な質問。
DE評価者として必要なスキル・資質
- DEというのはとってもごちゃごちゃとしていて、これこそDEといえるものはない。状況はひとつひとつ異なる。このような不明瞭な状況においても、自分の進め方について自問自答しながら、柔軟に進めることが求められている。
- DEはチームとして行う。また評価チームだけでなく、共創という原則のもとに、イノベーターの中に入り込んで、共に取り組む。共創の原則は幅広いスキルが求められる。
- DEの早い段階では、システム思考、システムマッピング等を通じて、どういう相互関係がそのシステムの中にあるのか。どのような視点があるか、どこに境界があるか、理解するようにしている。
- DEにおいては、研究者として訓練を受けた実践者、測定する知識を持っている人は、その純粋なやり方を手放さなければならなく、柔軟に目の前の文脈にあわせることが求められる。異なる分野の人材とも協働するため、心も考え方も開いていくこと必要。複雑なシステム変化をもたらすことを目的とするために、DEの評価は長期にわたる。今まで出会ったことのない人と互いの価値観や働き方を早期に理解し合うことが大切。そのため、ファシリテーターとしてのスキルがとても重要。色々な評価の手法、アプローチやデータ収集のツールだけではなく、人々との関係を構築し、人々をまとめて一緒に考えて、一緒に作業し意思決定を行うためのスキルが必要。
- DE評価者は、不確実やあいまいさがあっても、それでもよしとしなければならない。必ずしも自分自身の次のステップがわからないこともある。きれいな計画を描いても状況がすぐ変化するため、一旦ご破算にしなければならないことも。そうやって方向転換をしていく。そういう不確実性、曖昧さの中でも人をサポートし、共に進むべき道を探る。そして意思決定をするための勇気が必要。
- DEの根幹に関わるのがプログラム関係者との信頼関係の構築。この関係性があるからこそ、変化を起こせるという前提から始まる。こういう関係性の中からいっしょに発展し、学び、データを収集し、何が起こっているか把握し、次の意思決定につなげていく。
(2)発題(源 由理子氏)
「日本におけるDE的手法の事例と評価学における位置づけ」
*プレゼン資料『DEシンポジウム_3Minamoto_lecture』に沿って発表された。
(3)発題(北大路 信郷氏)
「経営学における「創発戦略」とDEの親和性」
*プレゼン資料『DEシンポジウム_4Kitaoji_lecture』に沿って発表された。
(4)パネルディスカッション
モデレーター 今田 克司
ディスカッション(マッケグ氏、北大路氏、源氏、今田)
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(今田)(源氏へ)豊岡の事例のどこがDE的なのか?
(源)創発的であること(市民と一緒に行った)。市の職員と一緒に行ったこと(チームで実施)
(今田)(マッケグ氏へ)2つ目の事例はいかにDEの特徴をもっているのか?
(マッケグ)革新的試みだった。戦略に大きな変化をつけた。マオリを参加させた。スポーツに対する見方を変えた。マオリとして参加するとは?マオリとしての参画という意味を再考する必要があった。共創の例。12のマオリ、資金提供者も入った。評価設問を活用し、評価の厳格さを保った。
(今田)DE的な介入をすることで、質的な変化を誘発できるということが言えるのだと思う。
(今田)パットン氏とのQ&Aでも話題になったが、DEにおける評価の厳格さとは?
(マッケグ)評価の厳格さ、評価に対する考え方。あらゆる評価で厳格さは必要。データから合意できる価値を導き出すという厳格さも必要。
(源)ロジックの質が厳格であること。測定が重要だと思いがちだが、測定=評価ではない。評価は価値を明らかにすること。その価値をステークホルダーと一緒に作り上げていくことが重要。厳格さにはその意味が含まれているのでは? 評価のスキルに加え、ファシリテーションとコミュニケーション(対話から引き出す技術)
(今田)DEにおけるイノベーション、イノベーターとは?
(マッケグ)DEでは、問題を異なる枠でとらえたり、再考することをイノベーションと呼んでいる。創発的なものだと考える
(源)イノベーションには様々なレベルがあると考えている。豊岡の例の場合、業務情報のログを取るようになった。全職員に共有した。その結果小さな変化が行った。こういうのは小さいレベルだが、それでもイノベーションと言える。
(マッケグ)豊岡の例はソーシャルイノベーションだ。既存の制度、インフラを使いながらも、新たなアイデア、プロセス、政策に発展させるアプローチはDEだ。
(今田)DEの射程はグローバルにもあるが、小さなイノベーションが複雑系の経路をたどって、大きな変化を生むということも射程に入っている。
質疑応答(抜粋)
Q:現場で起きていることから政策レベルまで変革が起きている事例があれば教えて欲しい。
(源)児童館10館で評価しているが、どの館も特徴が違う。ただ、その違いを評価する方法は評価者だけではわからないので、それぞれの文脈に合わせて、創発されてくるようにサポートしている。
(マッケグ)マオリの例は9つのプログラムで小さな変化が起こった。家族とのつながりを強化した。親のスキルを上げる、コミュニケーションレベルを上げることを行った。その結果、子どもの学習レベルに大きな変化が起こった。3年後に対象群の8割が国の読み書きのレベルを超えた。他の学校にも展開できた。
Q:創発とはポジティブな意味か?リスクマネジメントの観点ではネガティブな意味だと思うが、どう考えるか?
(北大路)両方だと思う。予期しないものに期待しているところはあると思う。
(マッケグ)文脈による。ジョハリの窓などもツール。DEでは、ポジティブでもネガティブでも、起こっている事象を注意深くならなければならないという意識付けが強い。
Q:DEと既存の評価をどう切り分けるか?評価手法を切り替える際の意思決定は誰がどのように決めるのか?
(源)手法が変更になるわけではなく、アプローチの仕方が変わる違い(専門評価者中心から参加型になるなど)
Q:非線形だと、その結果から人が学ぶことができないのでは?
(北大路)線形(直線的ロジック)にもいろいろある。最初は直線的ロジックを作っても、そこで描かれるアウトカム以外の帰結も見逃さないようにすることで、非線形の事象にも対応できる。例えば横浜の事例だが、SIB対象事業で、子どもに対する学習支援を行っている。当初のアウトカムは、学習レベルの向上や将来的な進学率、ドロップアウトの減少だったか、実際事業から出てきたアウトカムでは、行政、地域の関係性が強くなるようなものが出てきた。それは、当初は予想できなかったが、見逃さないことが重要
Q:DEのコストを誰が負担すべきか?
(今田)海外でもDEに対して資金を出す例は多くない。日本においては、もっと難しい。今後の課題。
(マッケグ)マオリの例は、稀な例として資金が出た。政府の予算は少ない。小さなサイクルで予算を組んでもらう等の工夫も必要。
(以上)
事業年度:2017年度
事業成果物名:社会的インパクト評価普及のための評価支援人材の育成
http://nippon.zaidan.info/jigyo/2017/0000092007/jigyo_info.html