第3回「開発資金と国際連帯税~金融危機をチャンスに(1)」

12.01


2008年12月

CSOネットワーク リサーチフェロー
高木 晶弘


世界的な金融危機による途上国への影響が懸念されている。 開発NGOや援助機関の間では、この金融危機によって援助が減少する、ないしは公約が達成されないのではないかとの懸念が広がっている。 その一方で、この危機をむしろチャンスにするべきだという機運が「国際連帯税」などの革新的資金調達メカニズムに関して高まりつつある。

本稿では、これを推進する多国間の枠組み、 「開発資金のための連帯税リーディング・グループ」のギニアの首都コナクリで11月に開催された第5回総会の模様について報告し、 次回で日本における動きと今後の展望を解説する。

国際連帯税とは

国際連帯税 (International Solidarity Levies)とは、フランスが主導する革新的な資金調達メカニズムの一つで、 現在航空券税として25カ国が実施を表明している多国間イニシアティブである。 2006年から開始され、現在までの年間約3億ドルを調達してきた。 2000年に国連ミレニアム開発目標(MDGs)が合意され以降、 主要ドナーは開発資金を増額するための新しいイニシアティブを模索しはじめ、 米国はミレニアム・チャレンジ・アカウント(MCA)、英国は国際金融ファシリティ(IFF)を打ち出し、 2001年にメキシコのモンテレーで行われた国連開発資金会議において、開発援助の増額が合意された。 こうした流れにあって、フランスでは、専門家による諮問機関、ランドー委員会を組織し、 革新的な資金調達メカニズムに関する報告書を作成させた。 これを受けてシラク大統領は、航空券への課税を各国が連携して行い、 その税収を新たに創設するUNITAID(国際医薬品購入ファシリティ)に拠出する、「国際連帯税」を2006年7月に開始した。

一方、このような革新的な資金調達を推進するため、フランス、ブラジル、英国、ノルウェー、チリなどの国々は、 「開発資金のための連帯税リーディング・グループ」を2008年2月にパリで設立した。 多くの途上国が同グループに参加する一方、米国、日本などは参加しなかった。 また、通貨取引税などの金融取引税、国際的な資本流出・租税回避問題に取り組むNGOや、 HIV/エイズなどの国際保健課題に関わるNGO、環境NGOなど、欧州を中心とした多くのNGOがこの新しい枠組みに参加し、 革新的なアイデアを各国政府に積極的に提供してきた。

航空券連帯税は、多くの国が参加しやすいように、柔軟な導入方式をとっており、課税主体はそれぞれの参加国である。 それぞれの国の都合に合わせて税率や拠出方法を設定できるようになっており、 フランスの場合、EU圏外の国際航空券に対し、エコノミー・クラスに4ユーロ、ビジネス・クラスに40ユーロを課し、 EU域内ではその4分の1を徴収している。 集められた資金は世界保健機関(WHO)本部内に事務局を置くUNITAIDに拠出され、 HIV/エイズ、結核、マラリアなどの感染症対策資金となる。 UNITAIDは大量購入によって高価格の医薬品の価格を下げ、関係援助機関に提供しており、 ゲイツ財団やクリントン財団などの民間セクターとも協力関係にある。 また、同理事会には、途上国政府代表や市民社会代表も入っており、より公平かつ透明なガバナンスが試みられている。

コナクリ会議~連帯税リーディング・グループ総会

コナクリ会議の様子

「連帯税リーディング・グループ」の第5回総会は、2008年11月6日~7日、議長国のギニアの首都コナクリで開催された。 会議では、これまでのグループの枠組みで実施されている航空券連帯税/UNITAID、 IFFim(予防注射のための国際金融ファシリティ)/GAVI(ワクチンと予防接種のためのグローバル・アライアンス)、 AMC(事前買取制度)などの取り組みが報告されるとともに、 デジタル連帯基金、移民による海外送金、通貨取引税、民間と連携した自発的寄付とミレニアム基金プロジェクトなどについて報告・議論された。 ノルウェー政府が議長を務めていた「不正な資本フローに関するタスクフォース」の議論の成果も発表された。 不正な資本フローとは、汚職、マネーロンダリングなどの犯罪、商業的な租税回避によって途上国から流出している資本であり、 その額は、途上国から先進国への流れとして、年間5000億ドル~8000億ドルにのぼると報告されている。 これについての今後取り組みを強化していくために、「不正な資本フローに関するグローバル・タスクフォース」が設立された。

また今回の総会には、11月29日から開催される国連開発資金に関するドーハ会議に向けて、 リーディング・グループからの提言をするという目的があった。 2日目の午後に、フランス外務省から提示された「コナクリ宣言」のドラフトを議論し、最終的にフランス語版は合意された。 後日、英語版での修正・確認作業を経て、同宣言はドーハ会議で発表されることになった。 「コナクリ宣言」は、これまでリーディング・グループが達成してきた革新的なメカニズムによる開発資金の増額と実施プロジェクトの成果を確認するとともに、 金融危機による開発資金への影響を考慮し、さらなる取り組みの重要性を再確認したものである(宣言文PDF・194KB)。

UNITAIDのトップである、ドスト・ブラジ氏(革新的資金メカニズムに関する国連特別顧問)は、 国連ミレニアム開発目標の達成にむけて、今後さらに取り組みを強化する必要があることを力説し、 主要国の参加と政治家の指導力の重要性を強調した。 日本政府が今回正式参加をしたことは、折に触れて言及され、歓迎を受けた。 日本政府を代表して外務省国際協力局多国間協力課の植野課長があいさつし、 「このグループでの議論や経験を共有していきたい」と述べた。

市民社会の要望

市民社会サイドからは、カメルーンのNGOが声明を発表した。 前回のダカール総会での市民社会の議論をベースにしつつ、ドーハ会議の重要性とリーディング・グループのさらなる行動の必要性を指摘した。 通貨取引税に関するセッションでは、英国Stamp Out Povertyのデビッド・ヒルマン氏がプレゼンテーションを行った。 金融危機はリーディング・グループにとってチャンスであり、通貨取引税という大きな開発資金源を、 開発・気候変動・金融・食料・燃料などの緊急の課題が差し迫った今だからこそ見逃すべきではないと各国代表に呼びかけ、 ドーハ会議を念頭におきながら次回のパリ会議において積極的にこれを議論するべきだと提起した。 一方、政府関係者からは、特に力強いサポートの声はなく、 世銀からは「魅力的な財源であることは理解しているが、今後もしばらく議論の動向を見守りたい」という発言があった。

金融危機とG20サミット、ドーハ会議、ポズナニでのCOP14、そして米オバマ政権への移行など、 開発資金をめぐる国際的な政策環境としては重要な時期を迎えているが、 連帯税リーディング・グループがこうした世界情勢の下でさらなるイニシアティブを発揮していこうという機運にはやや物足りなさが残った。 リーディング・グループの議長国はギニアからフランスへと移り、次回の全体会合は2008年2月~3月にパリで開催される予定である。 サルコジ大統領が金融危機への対処に意欲を示しており、来年4月までに再度開催されるG20の議論も踏まえつつ、 次回のパリ会合ではより金融規制に踏み込んだ議論がなされることが期待されている。

(この稿つづく)

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