第5回「アメリカのNGOはオバマ新政権の大きな波に乗れるのか?!」

02.20


2009年2月

環境政策コンサルタント(在ワシントンDC)
リチャード・フォレスト


熱狂的な支持とともにアメリカに誕生したバラク・オバマ新政権。 ワシントンでは、アメリカ政府と市民団体のあいだの関係修復に向けた新しい風が吹きはじめている。

8年ぶりに追い風の吹く進歩的NGO

人権、開発、環境などの問題にたずさわる進歩的NGOは、 過去8年間のブッシュ政権下においてはひたすら「守り」の姿勢を貫かざるを得なかった。 しかし時代が変わり、彼らはオバマ政権の新しい波に乗って活動の目的を果たそうと、準備を進めている。

オバマ政権が打ち出している政策の内容はもちろんのこと、それ以外でも、新政権とNGOとの親和性は強い。 オバマ氏自身、草の根のオーガナイザーとしてNGOで働いた経験をもつ。 また、同氏の選挙戦術は、NGOが会員や支持者を動員する方法と同じように、 インターネットの最新技術(ウェブ2.0)を使って支持者を集めたことでよく知られ、それゆえに成功したともいえる。 市民に直接はたらきかけ、自分の関心のある分野での行動を促すやり方は、まさにNGOの手法だ。

また、政権移行チームの共同責任者に選ばれたジョン・ポデスタ氏は、 リベラル系シンクタンクのセンター・フォー・アメリカン・プログレスの会長だ。 ヒラリー・クリントン国務長官の気候変動問題担当特使に任命されたトッド・スターン氏は、 同センターのシニア・フェロー。 彼らのように、米国の国策づくりにNGOから登用される人員はこれからも増えるだろう。 オバマ新政権下で、政策形成過程が、より透明かつ参加型のものになるだろうとの予測も強い。 ブッシュ政権においては限られていた政府の情報開示に対する姿勢にもすでに変化がみられはじめている。

環境分野でのパートナーシップ

政権とNGOのパートナーシップに関して、特に劇的な変化が訪れるだろうと予測されているのが環境分野である。 一月に、オバマ氏は公約通り、再生可能エネルギーの供給倍増計画を表明したが、 アメリカ再生可能エネルギー評議会(ACORE)はこれに賛同し、具体的な政策についてのアイデアを広く募集している (詳細はこちら)。 こういった動きに追随すべく、多くのNGOが、新政権下で日の目を見るであろう、政策提言の微調整を行っている。

気候変動問題に対する基本的姿勢こそ、オバマ新政権とブッシュ政権の違いが最も顕著に現れていることの中のひとつである。 ブッシュ政権下の8年間のあいだ、気候変動に関する科学的根拠は無視され続けてきた。 環境NGOは、温室ガス排出制限に向けた新法の成立や、 京都議定書に続く温暖化防止のための多国間の取り決め制定に向けた舵取りなどに、新政権への期待を表明している。

中でも、複数の環境NGOが主張しているのが、「グリーン重視」の経済政策だ。 太陽光や風力発電、エネルギー効率を重視した住居やオフィスの改築・改装などで、 多くの環境に配慮した雇用機会 ― グリーン・カラー職 ― が創出されることが期待されている。 2月上旬にワシントンで開かれた「グリーン・ジョブ」会議には、 全米から、州知事、上院議員、自動車や鉄鋼産業の組合代表、シエラクラブなどの環境NGOが集まった。 環境派と労組の新しい協調路線が確認され、会議参加者は、 旧政権時代の環境への無関心にようやく終止符が打たれたことを祝い合った。 「大統領が私たちの味方になる時代がやっと到来したのだ!」とのコメントに盛大な拍手が贈られた。

高まる期待と今後

もちろん、米国民の現在の最大の関心事は金融危機で、経済問題が現在の追い風に暗雲をもたらす懸念は大きい。 とはいえ、オバマ政権の進歩的改革に対する期待はとても高い。 ワシントンそして米国に到来した新しい波の威力がどの程度かを問うのは時期尚早であるが、 なにせ8年間も待たされたあとである。大波を期待するのも無理はないだろう。 NGOがうまくその波に乗って邁進することを願っている。

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