何よりも、地域を大切にしたい

一般社団法人東北圏地域づくりコンソーシアム 事務局長
高田篤さん


Q1:あなたが発展的評価研修に参加したのは、どういう思いやきっかけがあったからですか?

私の仕事は地域コミュニティや団体への支援で、仙台を拠点に東北地域を主な活動の場としています。東日本大震災以降、外部から大量のヒトとカネの支援が入ってくるとともに、私が支援する団体を含めて「専門家」から事業評価を受けたのですが、そのやり方と結果に違和感がありました。私たちが大切にしている価値が評価者に伝わっておらず、結果に納得できなかったのです。こうした経験もあり、当初評価にはあまりよいイメージを抱いていませんでした。

しかし一方で、復興事業は発災から十年が一区切りとされており、被災地では今、ヒトもカネも早く動いていきます。これまでの活動が総括されないまま、十年の節目を迎えてしまうのではないかという危機感と焦りがあり、「一度総括を」という思いで自ら評価に足を踏み入れました。

Q2:研修中やその後を含め、発展的評価を実践してみてどうでしたか?評価者としての手ごたえや団体側の反応、変化などがあれば教えてください。

従来型の評価は事業者が客体となりがちですが、発展的評価は事業者が主体である点が大きな違いだと思います。また、現場の変化に応じてリアルタイムの動きに伴走することも発展的評価の特色です。私が活動している地域は変化のスピードが速いので、まさに当てはまる評価のあり方だと感じています。

実習で伴走しているプロジェクトは、これから動いていく段階なので、まだ発展的評価の手応えについて確たることは言えませんが、変化する情報をプロセスに織り込んでいくよう心がけています。

評価者と団体との丁寧な信頼関係づくりも発展的評価の特徴ですが、私のこれまでの経験と通じ合うものがありました。現在に至るまで8年間、私は同じ団体の伴走をしているのですが、当初は同じ言葉であっても双方で互いに受け取るニュアンスが違うので、やはり誤解が多い。懸命に言葉を打ち返していくうちに、地域の人たちが自分の言おうとしていたことを自然に口にしていることに気づきました。この頃から活動がよくなったように思います。自分を含め、事業や団体に対する関係者の構想がそれぞれ異なるのは当然のことです。経験の共有が積み重なって初めて進むことができるのだと実感しました。こうしたチームビルディングだけでも2年という時間をかけました。メンバー全員が被災し家をなくしていながらも、地域のために動き続けている。その姿を目の当たりにしているからこそ、私も頑張ってこれたのだと思います。

Q3:評価者として団体にかかわる時、あなたが一番大切にしていることは何ですか?その理由は?

「団体にかかわる」という視点では、肝心の地域があまり見えなくなります。私たちは確かに団体を応援するのですが、「団体さえうまくいけばよい」とは思っていません。多くの場合、団体のメンバーと地域住民は重なっています。評価者は、活動終了時に団体のメンバーが地域で孤立したり不利な立場にならないよう念頭に置いておくことが大切だと思っています。

コミュニティ支援は、住民と行政の間に入ることが少なくなく、シビアなケースもあります。どちらかから裏切り者と思われたら終わりですし、かと言って中立があり得ない状況にも遭遇します。

私が地域に関心をもったのは、区画整理などに対する反対運動からですが、後に考えを変えました。外部からやってきた人が運動を主導し、その運動に参加した地元の人が地域から疎外される状況を目の当たりにしたからです。いくら「正しい」運動でも、犠牲者をつくって終わる運動のあり方は肯定できません。人はそれぞれ思いが強いので、「運動」にすることはある意味簡単なのです。でも、共感しない人ももちろんたくさんいる。地域に犠牲者を出し続けていく構造は、運動の質としても本来ダメなのです。正しいことは伝えながらも、広い理解を得ていくこと。私の役割の一つは、この視点を地域に織り込んでいくことです。

被災地の防潮堤の設置をめぐる問題にも通じていたと思います。反対の人も賛成の人も行政の人も、一堂に会してきちんと議論することが大切でした。東京から来た有識者が反対を主張しても、黙っていてもらう。私は反対・賛成ではなく、「『決める決め方』が地域で決まっていなかったから、決めていくプロセスをつくりましょう」と提案しました。場をつくることに主眼を置いたのです。「運動」の中からは、そういうあり方はなかなか見えてきません。大切なのは運動でも活動でもない、地域だと思っています。これは評価者のあり方や姿勢がどうあるべきかに通じていると思います。

Q4:NPOなどの事業者は、良い評価や伴走支援にめぐり合うためにどうすればよいと思いますか?

地域のつながりの中でNPOと伴走評価者に自然に出会えるような環境をつくることが大切だと思います。今は人と人とのつながりが弱くなり、自然につながりはつくれません。さざ波をずっと起こしていないと、みんな活動にも飽きてしまいます。旗を上げ続けなければ、つながりも活動も残りません。

東北の小さい地域のまちづくり団体には、資金調達やネットワーキングがうまい人が必ず一人はいます。そういう地域の人が一匹オオカミではなく、複数でつながっておくことが大切です。イベントなども単独でやらないで、地域で何回か会議を実施することも、伴走支援や評価に関心がある人のつながりをつくる仕掛けの一つです。私は、地域を動かしていける人に評価視点をもって活動してもらうと同時に、そういう人たちをやっかまずに受け入れる土壌を地域につくるよう努力しているところです。地域で核となる人が、ばらばらにいるのではなく、互いに牽制しあいながらも、ゆるやかなつながりを持つことが基盤をつくっていきます。

ただ、ネットワーク自体をつくっても、地域の問題を解決していくネタやテーマがなければ機能しません。評価者のネットワークが必要なのではなく、一緒に取り組むテーマが必要だと考えています

(聞き手:事務局 清水みゆき)

DE人物万華鏡

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