Q1:あなたが発展的評価研修に参加したのは、どういう思いやきっかけがあったからですか?
評価に関心をもったきっかけは、昨今の休眠預金活用の動きに加えて、これまでに評価の専門家と一緒に仕事をしてきた経験からでした。当初は従来型評価と発展的評価の違いもよく知らないまま研修に飛び込んだのですが、知識を吸収するだけの場ではなく、一緒に考えたり、参加者のそれぞれの内面やライフヒストリーを語る場があったり、柔軟な研修のあり方が印象的でした。そして参加者も講師陣も濃い人ばかり(笑)。自分も研修を企画する身なので、刺激を受けることができましたね。
Q2:研修中やその後を含め、発展的評価を実践してみてどうでしたか?評価者としての手ごたえや団体側の反応、変化などがあれば教えてください。
自身の変化としては、評価の射程の広さ、威力を実感しました。一口に評価と言っても、いろいろな関わり方があることを知りました。これまで、評価は事業の最後に出てくるものと思っていたのですが、発展的評価では事業の目標設定の段階から始まることを理解して新鮮に感じました。
今では、講師やコンサルタントの仕事の際にも、発展的評価の要素を取り入れています。評価手法によるエビデンスで説得力が増したり、相手が刺激を受け能動的になったりという変化を感じています。団体側が漠然と「よい活動をしたい」と思うだけの地点を踏み越え、腰を据えて考える素材を提供できるようになりました。相手にいい影響を与える新しい言語をひとつ手に入れた気がしますね。
発展的評価において評価者の存在は、例えて言えば「団体の『途方もない旅』につきあうフォトグラファー」。団体が未知の領域にチャレンジしていくことは、ある種の旅と言えると思います。フォトグラファーは、旅の要所ごとに写真を撮影し、団体に対し「私たちは今、こういう場所でこういう状況にありますね」と見せる役割です。行き先が必ずしも明確ではない旅に同行しながら、撮影した写真を見せて事実を知らせ、相手の適切な判断をサポートする。団体がよい旅をするには、こういう存在はやはり傍にいた方がいいですし、役立つと思います。そのためにはフォトグラファーも被写体から信頼されるようになる必要があるし、適切にアドバイスできるスキルが求められます。
Q3:評価者として団体にかかわる時、あなたが一番大切にしていることは何ですか?その理由は?
「この人は、何をおもしろいと感じるのだろう?」と一生懸命考える姿勢ですね。中学生の頃、信頼していたお姉さんに言われた「みんなが『わあ、唯ちゃんの考えてること、すごくおもしろい!』と思ってくれれば、唯ちゃんは何でもできるんだよ」という言葉が印象的で、今に至るまで、この言葉にとても影響を受けています。
私の活動へのパワーの源は、地域への愛着もありますが、常に根底には「もっとおもしろくしたい」という気持ちがあります。中学生の頃にPCを買ってもらい、地方都市ではまだ早い方だったインターネットの世界を知りました。感想は、「めちゃくちゃおもしろい」。自分の意見や表現を発信できて、それに対して色んな反応が世界中からリアルタイムに返ってくることに夢中になる一方で、リアルな世界もこれくらいおもしろくならないものかな、そういう社会を作れないのかなと思いました。今も、その思いが原点になって仕事をしています。
リアルさ、現場感は大事にしています。私は生まれも育ちも、そして仕事の場も福岡です。これまで評価を受ける側としてもいろいろな経験をしてきましたが、東京の視点に立った地方の見え方は、率直に言ってかなり歪(いびつ)です。地方での実践と評価は、地方のリアルを知っている自分たちの手で、と強く思っています。
Q4:NPOなどの事業者は、良い評価や伴走支援にめぐり合うためにどうすればよいと思いますか?
NPO自身が事業の目的をしっかり握る、ということが第一だと思います。そして、その目的にとってよい評価は何かをみんなで考えることが大切です。そこをもし譲らなければならない場合、評価はしない方がよいと思います。
質問の主語を逆にして「評価や伴走支援が、どうすれば良いNPOに出会えるか」という角度から考えてみることも必要です。評価者がどういう価値観や思想をもっているか。誰にとってよい評価か。こうしたことにも注意を払ってみる価値はあります。そもそも、単体で「良い評価」「悪い評価」というものはありませんから。
コンサルタントも評価者も、依頼を受けて仕事をする「受け身」と思われがちです。「私はこれができるから、あなたはこれを買ってください」という関係ですね。でも、もうそういう時代ではありません。評価者もチームの一員になり、事業を一緒につくる共創の時代です。従来型の評価にはできないことですが、発展的評価ならできます。評価者は、よい社会をめざして動く存在。「依頼されたから」「予算をつけてくれたから」という発想ではなく、応援したい団体や共感できる活動を自ら見つける姿勢が求められていると思います。
(聞き手:事務局 清水みゆき)