【2015年2月3日】貧困をなくすためのグローバル・コール(Global Call to Action against Poverty=GCAP)は先ごろ発表された潘基文事務総長による統合報告書「2030年、尊厳への道:貧困を終わらせ、全ての人々の生活を変革し、地球を守る(The Road to Dignity by 2030: Ending Poverty, Transforming All Lives and Protecting the Planet)」に対する見解を公表した。
GCAPは「国連加盟国に対する“警告”(A Red Flag for the United Nations)」と題するこの声明の中で「潘事務総長が加盟各国の『現実主義』と『地政学的観点からくる強硬姿勢』に妥協せず、野心を維持したことを称賛したい」と統合報告書に対して一定の評価をしている。一方で「多くの市民社会は統合報告書に懸念を抱いている。恐怖と欠乏から解放され、公正で持続可能な社会創造を実現するための提言に欠けている」と述べ、「貧困」「不平等」「正義」「民間セクター」などからなる10項目を挙げて「良い点」「悪い点」を指摘しながら、よりよいポストMDGs目標策定のための提言を行っている。
GCAPは他の市民社会組織とも連携して2013年3月に「ハイレベルパネルに対する“警告”」と題する声明を発表しており、この声明はポストMDGsに関連してGCAPが発した2回目の警告となる。
提言の要点は次の通り。
1.貧困
「極度の貧困を2025年までに解消する」ことが2000年のMDGs策定時に掲げられていた。SDGsで「すべての人々のニーズと権利を満たす」実現を2030年までと定めることは期限の延長であり、好ましくない。統合報告書はこの点に触れていない。
「極度の貧困」を測る指標が不十分だ。オープン・ワーキング・グループ(OWG)が提案する1日1.25米ドル以下という指標は2005年以降のインフレを考慮しておらず、現時点でも尊厳ある生活を送るのに不十分な額であるし、2030年までにはさらに現実から離れた指標になってしまう。
2. 格差
「全ての社会的・経済的集団に行き届かない限り、目標が達成されたことにはならない」という、潘事務総長の強い意見を歓迎する。
包括的な医療ケア、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)、周縁化された人々への金融サービスの提供、そして「国家間および国内格差の低減」に対する潘事務総長の支持を歓迎する。また、最低限の基準を含む適切な社会保障制度に対する潘事務総長およびOWGのコミットメントも歓迎する。
ターゲットと指標はより洗練される必要がある。例えば、下位40%の収入上昇額の全国平均を指標とするより、上位10%の富裕層における税引き後の収入が下位40%の所得を上回らないという内容にしてはどうか。
3. 正義
持続可能な開発を尊厳および正義という視点から捉えるという、潘事務総長の決断を歓迎する。ただし、統合報告書が用いる「正義」の定義が狭く、支配者の大義のために多くの命が犠牲になっている現状を踏まえる必要があることを指摘する。
4. 民間セクター
ビジネスセクターはフィランソロピーではなく本業において、労使関係、地域、環境への影響における責任を果たすことで開発における役割を担うべきだ。
統合報告書は土地と水の収奪について触れていない。OWGでは2030年までに男女共に土地を管理し、安全かつ平等なアクセスを持つことを目標として挙げているが、土地や水の収奪への対処は見られない。
鉱山や油田などの付近に暮らす人々が深刻な問題に直面しているにもかかわらず、統合報告書には「採掘」「鉱業」の単語すら見られない。
5. 地球の限界と気候変動
統合報告書は「2015年末までに有意義かつ普遍的な気候変動合意を採択」するよう求めている。地球を破壊する化石燃料への補助金撤廃と、「地球全体の気温上昇を摂氏2度未満に抑制する」をSDGsに含めるべきだ。
6. 公正なジェンダー
統合報告書は女性の性と生殖の権利実現に触れるに留まり、全ての人に同様の権利を保障するまでに至っていない。また、多くの女性が従事している貨幣価値では測れないケア活動、社会的生産性を測るツールが検討されるべきだ。
7. 経済と金融の構造
新たな開発のパラダイムは「善く生きる(Buen Vivir)」を具現化し、人類と自然が調和し、利益ではなく地球と人に焦点を当てたものである必要がある。
GDPとGNPは不平等、公衆衛生、環境などの外部性も測ることのできる測定基準に差し替えられるべきだ。統合報告書はGDPが測定基準として不適切であることには触れているが、何ら代案を示していない。
統合報告書は「包括的かつ十分な金融規制を積極的に実施する」必要性に触れているが、ソブリン債や政府開発援助(ODA)、開発資金に女性の権利を組み込むことについて触れていない。また、ODAのコミットメントには強制力を持たせ、供与上の政策条件なしで実施される必要がある。
8. 人権
統合報告書は貧困、搾取、不正義は公的機関や民間セクターなど「人権と人間の尊厳の保護に携わる人々」の「行動と怠慢」に起因していると述べている。統合報告書はポスト2015年フレームワークが人権に基づくべきであり、企業は人権を守らなければならないというふさわしい記述を行っている。
9. 平和と紛争
統合報告書は「恐怖、暴力、差別からの自由」「参加型民主主義、自由・安全・平和な社会は開発を可能にする要素であるのみならず、その結果でもある」という表現を使って、正義と安全で平和な社会の関連性を示している。一方で統合報告書とOWGによるSDGs案には、紛争の根本的な原因に対する取り組み、戦争犯罪者の刑罰逃れ防止、正義へのアクセス、紛争解決における女性の参画、武器貿易条約、人々が自らの私財を所有し管理できる自由の確保といった視点が欠けている。
10. アカウンタビリティー、汚職、データ、参画
統合報告書が、プライバシーの保護を約束しつつ、最大限の透明性、情報共有、参加型モニタリング、データの公開にコミットしたことを歓迎する。
統合報告書は「自由かつ活発で、意味のある市民社会との協働」の必要性を承認している。しかし、あまりにも多くの国々で市民社会組織の活動がさまざまな方法で制限され、市民社会の活動家が政府に殺害されるという事態も発生している。公的機関は貧困層や阻害されたコミュニティも含む多様な声と関心に耳を傾け、真剣な対話を行わなければならない。
出典:Global Call to Action against Poverty
原題:A Red Flag for the United Nations
URL:http://www.whiteband.org/en/news/15-01-30-red-flag-for-the-united-nations