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日本の人権及び公共調達に関する法的枠組みについての調査_240927
CSO Network, in cooperation with the Danish Institute for Human Rights (Senior Advisor, Mr. Daniel Morris and Researcher, Mr. Jumpei Nagaoka), is pleased to publish the paper “Research on the Legal Framework for Human Rights and Public Procurement in Japan”.
Please click here to read the full paper.
A Review of the Legal Framework Governing Human Rights and Public Procurement in Japan_240927_rev
以下に、日本語エグゼクティブ・サマリーを掲載いたします。
エグゼクティブ・サマリー
2023年4月3日、日本政府は、中央政府による公共調達の入札に参加する企業が人権尊重責任を果たすための制度の導入に関する方針を決定した(後述3.4)。本稿は、当該方針に基づく様々な取組みに関与する個人や団体(政府機関及び非政府機関)が水平的・垂直的な[1]政策の一貫性を確保できるよう、人権、責任ある企業行動、持続可能な開発及び公共調達に関する国内外の枠組みを提示することを目的としている。
日本には、中央調達機関が存在しない。OECDによれば、中央調達機関を有していない加盟国は日本とオランダだけである。日本の中央政府における公共調達制度は、国家予算の執行に関する手続の問題として、会計法並びに予算決算及び会計令をはじめとする諸法令により規律されているところ、会計法の実施に関する所管官庁は財務省であるが、他の省庁も、公共調達に関する様々な法令の実施に関する所管官庁となっている場合がある(後述4)。日本の各省庁は、自らの所管事項に係る公共調達がどのように行われるかについて、それぞれに規則等を定めることが認められており、例えば、入札書類一式の書式・内容は省庁ごとに異なり得る(後述4・3.4)。
中央政府における公共調達制度の主要根拠法令である会計法や予算決算及び会計令は、公共調達の目的について明示的な規定を置いておらず、公共調達を付帯的政策のために用いることを明示的に認めてもいない。それどころか、会計法の所管官庁である財務省及び一部の学説は、公共調達を付帯的政策のために用いることについて、否定的な立場をとってきた。しかし、実際には、公共調達を人権の実現のために用いる様々な法令が実施されてきた(後述3.4)。
障害者優先調達推進法、女性活躍推進法(及び女性の活躍推進に向けた公共調達及び補助金の活用に関する取組指針)、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」及び「緊急提言~未来を切り拓く『新しい資本主義』とその起動に向けて~」は、いずれも、公共調達を人権の実現のために用いる規定を含んでいる(後述3.4)。例えば、公契約について、障害者の就業を促進するために必要な措置を講ずる努力義務を国に課した上で、当該措置の例示として、競争に参加する者に必要な資格を定めるに当たって障害者の雇用の促進等に関する法律の一定の規定に違反していないことや、障害者就労施設等から相当程度の物品等を調達していることに配慮することが挙げられている(後述3.4)。また、これらの法律の中には、国に対して、「役務又は物件の調達に関し、・・・認定一般事業主、特例認定一般事業主その他の女性の職業生活における活躍に関する状況又は女性の職業生活における活躍の推進に関する取組の実施の状況が優良な一般事業主・・・の受注の機会の増大その他の必要な施策を実施する」ことを義務付けたり、総合評価落札方式において、従業員への賃上げを表明している企業に対して加点をすることを内容とするものや、各省庁の調達体制や説明責任について定めるものもある(後述3.4)。しかしながら、これらの法律に含まれる人権関連の規定の内容は統一されておらず、相互の関係性や、会計法における位置付けも明確ではない。
なお、会計法のもとで行われる入札手続を通じた公共調達活動において人権侵害のリスクに対処するために実施し得る保護の仕組みはわずかである。これには、例えば、不適切な安全衛生対策により生じた労災事故等の問題に対する措置として講じられることのある指名停止等が含まれる(後述3.4)。
全体的に、上記の法令のもとで公共調達と人権に関連する規定の多くは、特定のライツホルダー集団のエンパワーメントのために設けられたものであって、厳密には国家が関与するエンドユーザーまでのバリューチェーン全体に亘り人権侵害のリスクにシステミックに対処することを目的としておらず、また、調達先に対して人権デューディリジェンスの実施を義務付けることを内容とするものではない(後述3.2)。
また、各省庁は、それぞれ公共調達に関する苦情処理体制を設けている。それらの中には、政府調達のサプライチェーン上で生じる人権侵害に関する苦情を受領する可能性のあるものも含まれるが、多くは、公共調達と人権に関する苦情に特化して構築された仕組みではない(後述5)。
さらに、公共調達の主体やサプライヤーに向けられた、企業が人権尊重責任を果たすために中央政府の公共調達をどのように役立てることができるかについてのガイダンスやサポートは限定的である(後述6)。
[1] ここでは、国際的な枠組みと国内の枠組みの調和を「垂直的」と呼び、国内の枠組みとの整合性を「水平的」と呼んでいる。