2017年7月10日、セミナー「地域ワークショップがつむぎだすもの〜「地域の力」診断から地域づくりの取り組みへ」を開催しました。関係者を含め約30人の方にお集まりいただき、CSOネットワークによるツールを使った地域診断の紹介の後、診断を活用した静岡での地域ワークショップのご報告、そしてまとめの基調講演として静岡県立大の津富先生より地域ワークショップの役割を中心にお話いただきました。後半はコモンズの大江正章さんの進行のもと会場から活発な質問や意見が出されました。いただいたご意見を踏まえて「地域の力」診断ツールを、より使いやすいものに育てていければと思っています。以下セミナー内容をご報告いたします。
開会挨拶 今田克司 (CSONJ)
地域の本来持っている力を理論化、体系化する試みはに全国にあるが、SDGsが採択され、国も動いている中、地域・自治体単位でSDGsを活用する動きが出てきている。日本の地域が持っている力を問い直し、発信していくという動きにつながるように、この診断ツールがきっかけになれば良いと考えている。
趣旨説明 黒田かをり(CSONJ)
2013年に、地域の力フォーラムを、コモンズ代表の大江正章さんや福島の有機農家の方など8名で発足させ事務局をCSOネットワークが担った。全国各地で先進的な取り組みを行う地域を訪問し、その調査の結果を踏まえ診断ツールを作成した。各地でワークショップをやっていきたいが、指標はまだ開発途上であると考えている。今回はWSを開催いただいた、静岡の方々に発表いただき、大江さんにも議論に加わっていただく。地方創生という国の事業もあるが、上から目線であることも少なくない。地域目線の議論につながれば良い。
「地域の力」診断ツール活用報告 長谷川雅子(CSONJ)
(1)地域の力診断ツールとは
手元のワークブックを参照いただきたいが、地域の人々自身が地域の力を自己診断できる内容になっている。持続的な地域づくりをおこなう地域に特徴的な共通の要素を抽出して指標化している。幸福度の指標には荒川区などの試みがあるが、これも踏まえ、6分野に加えて、主観的幸福度も取り入れている。
(2)ワークショップ
静岡、富山県でワークショップを開催させていただいた。静岡は3回(3種類)のワークショップを行った。地域コーディネーターと連携して内容を固めた。静岡市駿河区丸子地区:共生社会が一番高かった。祭りや伝統行事などの取り組みへの評価が高かったが、経済に関しては評価が低かった。牧之原市相良地区:地元商店街と高校生の36名が参加したワークショップ。経済、公共施設の評価が低かった。公共交通機関、空き家の問題があった。牧之原市の全地域と周辺地区:共生社会、暮らしと生活の評価が高かった。静岡3地域に共通した評価がある。富山県黒部市大布施地区:共生社会、暮らしと生活の評価が高かった。総じて、共生社会の分野の評価が高かった。
(3) 振り返って
共生社会分野の評価が高く、経済・公共施設分野が低いという結果はほぼ共通していた。
共生社会の評価が高い人ほど、地域への誇りが強いという相関がわかった。
地域の現状を共有するとともに、地域づくりのヒントとなるよう事例を積み重ねて発信していきたい。SDGs同様、社会のあり方を問うものとして、改良を重ねながらモデルを提示していきたい。
近藤武 氏 認定NPO法人 丸子まちづくり協議会
丸子地区と丸子まちづくり協議会の紹介と設立の経緯を説明。
診断ツールを使ったワークショップを実施。いつも話していることが、チャートとして目に見える形で提示されたことが良かった。地域としてはやや答えにくい質問もあった印象、改善に期待。
今の活動をベースに、取り組みを展開していきたい。各地域とCSONとの連携が大事ではないか。
農業後継者が不足しており、若者の存在が重要。
東宏乃 氏 静岡県県立大学「ふじのくに」みらい共育センター 牧之原みらい交流サテライト
交通インフラが欠如し、人口が近隣へ流出している。特に南海トラフ地震では1万5000人への甚大な被害が想定されている。ワークショップに市民は慣れてしまっている面あり。静岡県立大学 「ふじのくに」みらい共育センター 牧之原みらい交流サテライトの二つのミッション:地域の課題解決ワークショップ、学生のコミュニティワーク力を育むためのフィールド開拓。地域の力診断ツールを活用したワークショップを2種類開催。商店街は、人口減やショッピングモールの影響により寂れつつある状況。普段出会わない市民が同じ土俵に立ち議論できたことが大きい。地元の高校生が商店街へのフィールドワークを行なった上でワークショップに臨んだ。今後は地域活性化のためのグランドデザインが求められていると感じている。牧之原全地区では参加者を公募したが、高校生から70代まで含むよう世代の多様性に配慮した。ネット環境が弱いことを初めとした課題が挙がったが、参加者が出会ってつながり新しいネットワークが出来上がりつつある。地域診断をしてそこで終わりということではなく、具体的な取り組みにつなげるべく、診断を踏まえた議論の必要があること。診断ツールの設問は、かなり理念的である(特に高齢者や高校生にはわかりにくい)。銀行の設問では、そもそも地元ではJAバンクが一番便利なので、選択の余地がないが、それだけで得点が高いのはどうなのか。診断指標をより地域の文脈に合わせて考えていく必要がある。
基調講演
津 富宏 氏 静岡県立大学国際関係学部国際関係学科教授
•専門は犯罪学。東日本大震災の映像を、静岡でもこうなるのではと重ねて見た人は多いのではないかと思う。地域の力フォーラムで診断ツールの話を聞き、静岡でやってみることにした。
•静岡の一人当たり平均県民所得は全国3位の322万円と高く、貧困率は15.1%と全国平均より低い。恵まれた田舎。静岡市、牧之原市は静岡県の中部になるが、中部の人は集団に適合する性格が強いと言われる。働き者だけど、世界を動かす人は少ないかもしれない。
•社会を測る物さしを変える必要があるのではないか。私たちは幸せになっていない。犯罪学が専門だが、所得格差は犯罪に限らず健康・子どもの学力など諸悪の根源であることは研究で明らかになっている。単純に経済発展すればいいというものではない。日本は相対的格差の大きい国になってしまった。GDPは増えても実質賃金は増えないので、奨学金をもらう率が上がっている。米国の研究では、労働組合加入率が下がるのと並行して、中間層の所得割合も下がる傾向がある。
•OECDでは幸福指標の一種としてBetter Life Indexを開発している。Good/Better Life(善き生)を基盤として考えるというのは欧州らしい考え方である(アリストテレスなど)。犯罪学の世界でも同様の議論がある。立ち直るためには、財産(goods)であり善(Good)が必要であるという考え方である。
•ポランニーが議論しているように、商品化すべきでないものを商品化したことで、現在の資本主義経済が立ちいかなくなっている。これに対し、イタリアの市民的経済論では、社会にまず価値を置くことを重視。社会的連帯経済という考え方も中南米などででてきている。地域の力診断ツールもそうした考え方に基づいているのではないか。
•地域ワークショップが紡ぎだすもの、という今日のタイトルだが、地域は今、うまく紡がれていない。ペストフの三角形の真ん中にある社会の隙間が拡大しており、無縁社会化が進行していると理解している。地域の人々が繋がり直すことで、隙間を埋めていくことが重要ではないか。
•ワークショップには地域の編み直し、再組織化という機能がある。コミュニティを「生き物」とすることで、運命共同体であると改めて理解することが大事。多様な参加者からなる地域におけるワークショップは、「地域の縮図」であり、地域の集合知を形成する場である。
•フラクタル構造としての地域を見てみると、小さな部分(フラクタル)が繋がって増殖していくイメージが持てる。つまり、ワークショップが増えていくことは、地域が繋ぎ直されるということ。沼津において、自分のNPO(青少年就労支援ネットワーク)で取り組んでいるが、これにより地域のセーフティネットができつつあり、隙間も埋まりつつあると感じる。他者に開かれるためにワークショップには空席をあえて開けて置くことも重要。
•地域の力ワークブック:もうちょっと具体的に目的/効果を書くことができると、ワークショップをやろうという意欲が高まるのではないか。ワークショップができない地域が困ってしまうことになる。ツールとワークショップの関係について、もう少し補わなければいけない。地域づくりは、インプット、集合知によるデザイン、アウトプットというサイクルで成り立つが、インプットが重要。
•ワークショップへのインプットでは、様々なソースから情報を取ること、多様な人から話を聞くこと、異なる空間・時間をまたがること、そしてリアルさ(映像写真といったビジュアル、豊かな情報量、音)などが重要。診断ツールはこうしたインプットのためのリソースの一つではないか。
•地域診断ツールとワークショップの関係について。2通りの順番がある。診断ツールは自分を映す鏡だが、診断ツールありきだと鏡の価値がわからないまま使うことになる。逆に、ワークショップから診断ツールを作成するという順番もあるのではないか。同志社大学松川・立木による神戸市での取り組みがある。特にソーシャル・キャピタルの形成促進を中心とした仮説に基づいて、ワークショップを通じて指標をつくった。実際に測定して因果構造における指標(ソーシャルキャピタル)の意義を確認している。
•PDCAでぐるぐる回ることが重要ではないか。診断ツールはインプットになっているが、本当はアウトプットの一つでもあることが望ましい。良いアウトプットを生みだすためのインプットとデザインが必要。そのためにも、地域に学びを取り戻すことが改めて必要ではないか。一緒に地域の人たちが勉強していかないといけない。十分に市民の間で、どういう地域を作っていきたいのかという議論を興したい。
パネル・ディスカッション
進行 大江正章 氏(コモンズ代表)
私自身が、地域の力診断ツールの元となる要素を作ったが、偏ったものであると認識している。以前、永続的発展という本を作ったが、当時から高度成長一辺倒の成長はおかしい、土地と労働は商品化してはいけないのではないかという問題意識があった。その観点から、自然エネルギー、農業、地域の農産物を購入しているかなどを、指標に入れた。
Q 地域の行政との協力の中で、どんな問題が起きてきたかについて教えて欲しい。
(近藤氏) 丸子は直接行政と関わらないやり方できている。事業によっては補助金を申請するが、日常の活動には行政の縛りがない。
(東氏)牧之原市の地域創生課とは緊張関係にある。ワークショップを契機に市民のうねりのようなものを作ってもらっては困るという立場。公共施設のマネージメントの観点からは、特に、否定的な立場。
(津富氏)ボランティアでやっている立場だが、個人情報の取り扱い方などはゆるいやり方でやっている。行政からは厳しい目で見られているのが実態。しょっちゅう市の担当が確認しに来ている。
Q:地域というのは、外側の影響を強く受けるのではないか。外部経済の崩壊が地域に影響を与えることがある。その辺のことはワークショップでは考慮されたのか。外部資本、つまり大型スーパー資本などはどこに位置付けられているのか。
(東氏)お招きはしている。伊藤園など。ワークショップには来ないが。市民ができることを大事にしていくという立場でワークショップを組んでいる。地域づくりには、少ない地域の資源を争い合ってはいけないということが原則でないか。そういう状態にはしないようにしたい。
(近藤氏)我々だけではなく、外の力の影響はもちろんわかっている。しかしワークショップでは意識していない。大手スーパーの影響はある。
(東氏)企業であっても、顔がつながっている地域の個人は積極的にお呼びしているし、市議会議員さんも同様。
Q 専門的なことをある程度知っていないと、議論がどこかに行ってしまうのではないか。専門的な人のサポートも必要ではないか。
(近藤氏)道の機能に関するワークショップをよくやるが、外部から講師を招いて議論をすることはよくある。(うまく利用している)
Q 診断ツールをここ1年使ってみて、ここが抜けているとか、修正したいことはあるか。
(長谷川)分野としては現時点で変えたいとは特に思っていない。この分け方については、質問票を整理する段階で工夫したもの。ただ、思いが強いこともあり、同じ質問が重複している部分がある。また、質問が多すぎるので、実際には地域で使うときには減らすなどの工夫をしている(牧之原WSの場合は30問程度に減らしたものを使用)。
(大江氏)公共施設については、公共性、人々と人々の繋がりから生まれる公共性というふうに変えたらどうかと思う。
Q 6つの分野は対角の構成などうまくできていると感じる。6角形としてバランスがあると回りやすいのでは。どこかが崩れていることではよくない。短いところを伸ばしていくことが大事ではないか。
(古沢氏 國學院大學教授)
地域の力フォーラムに関わって来た。ツールはまだトライアル。70指標、6つの軸をどうやって整理するか。これはこれでいい気もするが、診断ツールとなっているけれども、参加する人によって内容が変わってくる。「自己」診断ツールであることを明示したほうがいい。
70の棒グラフがどんな風になっているのかが気になるところ。どの点に違いが出て来ているかが重要。SDGs指標とのリンクも将来的には考えていくと良い。グループの編成の違い(属性の違い)によって変わってくる。そういう違いを読み解くためには、元データで出てくるような形にするとよい。
地域づくりワークショップの話があったが、戦略作成ツールがもう一つ、必要なのではないか。津富先生の話とも共通するが、戦略の前には現状分析・認識が必要になる。課題を立ててどう解決していくのかという戦略のツールが必要になってくるのではないか。
(大江氏)指標の結果の共通性はあったが、戦略は今後深めていく必要あり。
(長谷川)共生社会の指標相関は強い。公共交通、空き家問題なども多かった。
Q 自分の考える地域の力とは全然違う。地域の人がオーナーシップを持つには、外部との連携が必要。百貨店とその進出の仕方について話し合ったことがある。外の力をどう持ってくるのか。吉祥寺の経験。経済のサステナビリティは社会・文化と同様に重要であり、不可欠。外との連携により街の活性化につながると思う。
(大江氏)外との連携は重要であると考えるが、資本誘致が地域にとって良いとは考えていない。地域の商店街が廃れてしまう事例は多い。吉祥寺の場合は間違ってなかったと思うが、他の地域では難しいだろう。イオンは地元の四日市ですら潰してしまった。
Q 共生社会について聞きたい。脆弱な立場の人が組み込まれることが共生社会と言われることが多い。ここでは市民社会の参加のニュアンスが強い。そうした側面も発信したほうがいい。課題に気がつくことができるツールだと感じた。
(大江氏)43番目の指標、一般的には共生社会に入るもの。社会福祉は若干弱いので、改善したい。
Q 両方にまたがる部分は50点ずつ配分するなど、横断的な配点もできるのではないか。
Q 地域の人が外部の力をどう見ているかは、分析に入れていくべきではないか。自分たちが直接決定できない部分、力が及ばないところが地域に及ぼす影響を考慮することは、国際協力では常識になっている。戦争がその典型。都市銀行を利用しているかどうかという指標があるが、外部世界のインパクトを考えたほうがいいのではないか。
Q 自然との共生という分野がある。山梨県山田町の町おこしをやったが、林業再生には下流の地域(山梨県など)の協力が不可欠。国交省など、皆がいうのは外部の力をいかに活用するかである。このツールには排除する思考があるのではないか。
(大江氏)そういうつもりは全くない。福島の農家とも外部との繋がりについては必要だという議論をやって行きた。ただ、指標にはうまく表現できていないかもしれない。
Q 例えば、突然米価が下がるというのは地域の農家にとっては死活問題。議論の中で想定すべきでは。
(黒田)外部というのは、災害なども含まれるだろうが、みんなで知恵を出すことが必要。黒部でもそうだったが、公開されたデータを事前に揃えて活用するなど、ワークショップとは分けて準備しておくことが重要ではないか。
(大江氏)Q 今後、どのような形で地域作りにつなげていくか。
(近藤氏)外の力も含めて、診断ツールを有効に使えると思う。診断結果を踏まえ課題解決の実践をどうやってやるのか、戦略づくりの方を補強していただければ良いと思う。高齢者と若者など、幅広い世代の関与を試みたい。
(東氏)大学という立場でワークショップに関わっているが、理解する、気づきを深める、市民力を培うという3ステップでやって行きたい。牧之原市全域を対象として参加者60-70名規模のワークショップができれば、診断ツールはある程度検証されるのではないか。外から来る問題は人口減少、中の問題としては、今後いい意味で「よそ者(・若者・バカ者)」のつなぎ屋である大学が抜けたら、外の視点がない中で、地域づくりはどうなるのかということ。
Q 現在、海外で暮らしているが、帰国しても、外国人、移民という立場を感じる。日本では怖い時があり、情報開示が不整備である。そうした情報の視点が指標にないのではないか。外国人の視点も必要であり、外国人との関わりについても必要。
(津富氏)一定の教養がないと地域は支えられないし、大学はその役割。診断ツールでは参加者の多様性を担保することが大事、多様性の確保のためのルールづくりが必要ではないか。アウトプットについても一定のものさしがあったほうが、ワークショップもやりやすいのではないか。インプットとアウトプットを改善することで、診断ツールを生かせるのではないか。
(大江氏)丸子と牧之原ではかなり状況が異なる。丸子はかなり住民活動が活発。牧之原はうまく組み合わせた。津富さんが指摘したように、今までとは異なる価値観が地域に必要なのではないか。哲学、理念が今こそ大事ではないか。
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活発な議論が展開され、今後のよりよい診断ツールを生かしたワークショップ運営のため参考にさせて頂きたく思います。登壇者のみなさま、ご参加いただいたみなさまありがとうございました。
[発表資料]
開会挨拶
今田克司 一般財団法人CSOネットワーク代表理事
趣旨説明
黒田かをり 一般財団法人CSOネットワーク事務局長
「地域の力」診断ツール活用報告
長谷川雅子 一般財団法人CSOネットワークプログラムオフィサー
プレゼンテーション資料(長谷川)
ワークショップ報告
近藤武 氏 認定NPO法人 丸子まちづくり協議会
プレゼンテーション資料(近藤)
ワークショップ報告
静岡県県立大学「ふじのくに」みらい共育センター 牧之原みらい交流サテライト
プレゼンテーション資料(東)
基調講演
津富 宏 氏 静岡県立大学国際関係学部国際関係学科教授
プレゼンテーション資料(津富)